妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

 あの後、第二王子殿下と婚約した私。
 その時が人生で最高潮だったのかもしれない。
 
「つまらないわ……」

 殿下との婚約を結んだ私に待っていたのは、王子妃教育だった。王妃陛下によって選任された家庭教師が毎日公爵家に訪れる。礼儀作法、教養、地理学、政治学……様々な分野の勉強を強いられていた。
 ある程度公爵令嬢として身につけていた礼儀作法も「足りない」と言われ、一から学ぶ日々……。自由に遊び回れたあの時が懐かしい、と思うようにまでなっていた。
 
 それだけではない。もっと頻繁に会えると思っていた殿下も、公務があり多忙なのだ。婚約者同士の交流も週に一度だけ。しかも礼儀作法の教師の監視付き。
 自由にできるのは家庭教師が帰った夕方以降のみ。しかしそれも家庭教師からの課題で追われ……私は鬱憤が溜まりにたまっていた。

 そして一番苛立つのは、殿下との交流だ。
 私とあの女が交代したので、仕方のないことなのは理解しているのだが……常に「エーヴァ」と呼ばれることに嫌悪を感じていた。
 
 ――私はリリスよ? エーヴァは泉の藻屑となり消えたのだから。

 けれども、それを殿下に言うことなどできない。それを告げてしまえば、私たちは女神様の神託に背いたこととなる。これが周囲に知られてしまえば、私たちの人生は終わりなのだ。
 
 しかも婚約者である殿下は、いつも微笑みながら言うのだ。「私の婚約相手が()()君でよかった」と……。
 
 その瞬間、不快感が喉から迫り上がってきた私は思わず眉間に皺が寄せてしまう。それを殿下に気づかれてしまい、私は咄嗟に「出来の悪い妹ではありましたが……唯一の姉妹でしたから……」と物憂げな表情を浮かべる。
 殿下は、私の言い訳にも納得したのか穏やかな目で私を慰めてくれたのだが、一方ではらわたが煮えくりかえっていた。
 エーヴァではなく、私をリリスとして見てほしいという願いが段々胸中を占める。
 
 あの女なんかより、私の方がいい女だし優良物件だと思う。
 お父様もお母様も私を可愛がってくれていたし、いつも可愛いって言ってくれていたもの! 私が殿下の婚約者に選ばれるのも当たり前だわ。

 殿下との交流会を終え、学んだ作法を忠実にこなしながら私は馬車へと歩いていく。
 馬車に入るまで気を抜くことができない。本当に窮屈だわ。