妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

 その言葉にアダンは目を大きく見開いた。彼がそんな話をするのは初めてだったからだ。
 
「セファー、どういうことだ」
「……これ以上は制限で言えない。信仰に関わることだから」
「信仰に関わること、か……」

 アダンは以前話があったことを思い出す。
 神や使徒は人の信仰を力に世界の調和を保っている。けれども神がそれを強制してはならないのだ。どの神を信仰するかは人が其々決める。それが大前提だと話していた。
 そして神や使徒は人が誰を信仰しているのかを把握している。けれども、それを他人に告げてはならないのだ。信仰はその人の自由なのだから。

 少し考え込んでいると、執務室にノアが入ってくる。

「ノアか」
「エーヴァは寝たよ。イルゼが付き添ってる」
「助かった」

 ノアが少し嬉しそうにはにかんでいるのを見て、アダンは釣られて微笑む。そしてふと、ノアに話を聞いてみようと思い立った。
 既にセファーはこの場から立ち去っている。意気消沈した姿が、アダンのまぶたに残っていた。なんだかんだ彼は人が好きなのだ。彼が人を邪険にしている姿は見たことがないのだから。

「ノア、イグナスといる時のエーヴァの様子を教えてくれ」

 ノアは不思議そうに目を瞬いたが、事情を察したのかすぐに口を一文字に結んだ。

「僕と一緒に見ていた時は、普通だったよ……あ、けど、後半は僕とエーヴァは違う商品を見ていたから、その時は分からないかも」
「違う商品?」
「そう。僕はいつものように魔道具を見ていたんだ」

 ノアの話を聞いて、納得する。初めて同席させた時、彼が一番興味を引いていたのは魔道具だったのだ。

「その時彼女は何を見ていたのか分かるか?」
「チラッと見た時は、装飾品が置いてあったよ。けど、大振りな商品ばかりだったから、エーヴァは好みじゃないと思う。僕はいつもの別室に案内されて見ていたから、それ以外は分からないよ」

 そう言って肩をすくめるノア。

「あ、でも……その後僕と一緒に魔道具を見ていたけど、変な様子はなかったよ」
「そうか……」

 今日の例外といえば、イグナスの件だけだ。それにセファーの「信仰に関わる」という話……。顎に手を置いて考えるアダン。

 イグナスは空の女神の国の住人である。もしイグナスがエーヴァに対して何かを行ったとして……何の意味があるのだろうか、全く分からない。
 神の意思と大義名分を振り翳し、他の神を信仰する者に嫌がらせをする者もいる。けれども、空の女神はそのようなことを禁止していたのではなかったか。
 
 自分の考えにしっくり来ないと感じたアダン。何かを見落としているのではなかろうか、ともう一度今までのことを洗い直していると、ノアがポンと手を叩く音が耳に入った。
 
「そうだ、そういえば今回珍しい魔道具があったんだよ!」
「ほう、どんなものだ?」

 ノアは興味惹かれた魔道具を見た後に、興奮しながらアダンに話していた。どうやら今回も彼は何かに興味を持ったようだ。

「なんかね、今回は珍しく火の国の魔道具も手に入ったんだって」
「火の国の……?」
「ね、珍しいよね! 今までも何度か声を掛けていたらしいんだけど、今回やっと購入することができたって言ってた」

 新たな魔道具が見られた、と無邪気に告げるノアだったが、アダンは彼の言葉に引っ掛かりを感じていた。そしてその違和感の理由が喉元まで競り上がってきたその時。

「ただいま戻りました……おや、ノア様」
「あ、レナートお疲れ! じゃあ、僕はお仕事の邪魔をしないように、一旦帰るね」

 レナートの手にある書類の束が目に入ったのだろう。ノアは手を振って去っていく。アダンは喉に棘が刺さっているような異物を感じながら、次の紙の束を処理し始めた。