妹に代わり泉に身を投げた私、湖底の街で愛を知る 〜虐げられた私が幸せを築くまで〜

「なんで私が泉に飛び込まないといけないの?!」

 王城から屋敷へと帰宅した私は、宥める母親の前で手足をばたつかせる。殿下との婚約式の話だと思い、心躍るような思いで行ったのに……蓋を開けてみたら、怒られただけだった。しかも、教皇様からは『泉に飛び込むように』とまで、言われたのだ。

 まさかの命令にお父様の顔は強張り、血の気が引いていた。私だって最初教皇様の言葉が理解できず、口が半開きになっていたと思う。泉に飛び込め……だなんて、非日常的なことを言われて冷静でいられると思う? 無理よね。

 そもそも何で私? エーヴァが飛び込んだからいいじゃない!
 私の代わりをきちんと泉へ送ったのだから、それで許されるはずでしょう! それなのになぜ……!

 普段であれば、私の言葉に同意してくれるお父様、お母様でさえ今は口を閉じている。まさか……?

「お父様、お母様……私が泉に身を投げろなんて言わないよね?」
 
 私の身体は小刻みに震えている。両親の言葉を聞くのが少し怖かった。だって、いつも私に接する態度と全く違ったから。
 何かを告げようとして、口を開閉している二人。普段であれば「大丈夫だ」とすぐに声を掛けてくれるのに……身体の末端から体温が奪われていくような感覚がした。
 そんな不安を私が感じていると察したのか、お父様が私を元気づけてくれる。

「……大丈夫だ。まだ一ヶ月あるからな」

 教皇様は言っていた。『すぐに身を投げることなどできないだろう』と。そのため、猶予期間をもらえたのである。

「可愛いリリスが泉に飛び込むなんて……見ていられないわ! どうにか回避できるように考えましょう」
 
 お母様は言う。最悪この期間に挽回できれば、身を投げることを回避できるかもしれない、と。お父様もお母様の言葉に首を縦に振った。
 
 そうよ、もう疫病神のエーヴァは公爵家にいないの。
 だから、あとは私たちが幸せになるだけ……その時。

「ご歓談中申し訳ございません」
 
 頭を捻っている三人へと声を掛けたのは、執事だった。彼は困惑したような表情で、主人である公爵に視線を送る。

「現在、玄関前にお客人がいらっしゃいます。その方は『あなた方の直面している問題を解決できます』と伝言をされておりまして……一度お話する機会を与えてほしいとのことですが……」
「……」

 私とお母様はお父様を見る。執事が言葉を濁すと言うことは、彼の知らない人である可能性が高い。お父様はしばらく考え込んでいたが、何かを決意したかのように顔を上げた。

「会ってみよう」

 お父様の言葉に、何か言いたげに口を開こうとしたお母様は口を閉じて黙ってしまう。それを了承として受け取ったのだろう、お父様は背を向ける。私とお母様は最初顔を見合わせたが、お父様の後に続いていった。