after7は笑えない


痛くて苦しい。今の私の表情は、今までに誰も見たことのないものになっていて。かなり、必死に歪んでいるはず。


でもベテランペテン師には、今の私に、負の感情だけじゃないものが伴っていることが分かっているのだ。


そうでなければ、きっと処女にこんな無茶ぶりはしてこないだろう。


「おい、後ろ。」

「は、え?な、なに」

「う・し・ろ。バック」

「ちょ、む、ムリだって!」

「人工呼吸すれば痛みも和らぐって。」


うつぶせにへばる私。


思っていたよりもずっと清潔感のあるベッド。ちゃんと柔軟剤の香りがした。ただし行為のためだけに用意されたベッドは、処女を奪われる瞬間に人間臭さを纏った。


シーツをシワになるほど掴む姿は、それほどまでに滑稽なのか。


「ハハ、」


その笑い声と共に、自分の脚が引きずられていく。休みなしにぶつけられる肌と肌。汗ばむ自分の肌は、当分渇きを知らずに済むんじゃないかと思えそうなほど。


肩越しに、反抗の眼差しを向ければ。キラ君が口角を上げ、舌舐めずりする様が視界に入った。そんな狼さんに赤ずきんは勝てっこない。


慌てて顔を背ければ、「待て待て」と南緯90度方向に向かされてしまった。


人工呼吸という名のキスをするために。


「以外に舌、長いじゃん」  


ディープキスなら私にだって経験はある。

    
でもこの人工呼吸は…未経験だ。あまりにも深みがありすぎて、小耳にすら挟んだことがない。


舌を絡み取られて吸われるやつ。言い換えると、ハマれば自尊心が跡形もなく消されてしまうやつ。これが甘いかどうかは、知るだけ無駄なため考えるのをやめた。


キスの合間の呼吸が、なんでか吐息になってしまう。私が人工呼吸初心者だからなの?  

 
「はい、吸ってぇ、吐いてー。舌転がしてー」
「(イラッ)」


身体を委ねてしまうぬかるみが、こんなに心地いいだなんて知らなかった―――― 
 

「電子決済で分割払いOKなんで。ほいじゃ。」


カーテンの隙間から桃源郷がみえそうな時間帯。


私の鞄から勝手にスマホを取り出したキラ君。どうやら電子決済アプリのアカウントを勝手に交換したらしい。 


ベストもかっちりと。ベージュスーツ姿を整えたキラ君が、テーブルに私のスマホを置いた。薄暗い部屋に唯一灯る、スマホの点灯。儚く消えたのを確認する。


シャワー、浴びなきゃ浴びなきゃ…。そう思うのに、身体が思うように動かない。


一眠りしてからお風呂に入ってご飯食べてからまた寝よう。

 
そのまま眠る準備に入る私は、布団の中から手だけで“さよなら”した。