「305万も払うんだから。乱暴はやめて。」
「ちょっとやってみたかっただけ。」
「普段からこんなTLみたいなことしてるの?鳥肌もんだわ。」
「こういうのがいいって人もいるんだって。」
自分から吹っかけといて、女の影を出されたら出されたでいい気はしない私。処女とは面倒くさい生き物なのである。
「へえ?じゃあほんとにいいか、キラ君も体験してみなよ。」
キラ君の片腕を、両手で思いっきり引っ張れば。キラ君の締まった腰が私の眼前に迫った。
「ぉわっ!」
彼の色気のない感嘆詞が、ベッドのスプリングに跳ねて飛び散る。私はタイミングを見計らって、彼の四肢を捕らえるように馬乗りになった。
「どう?私に無理やり組み敷かれる気分は?」
ぐっと、筋肉質なキラ君の腕を抑えて、勝ち誇るように見下してやる。
“ミウこわーい。優しくして?”とか言って、潤んだ瞳で煽ってやるのがお望みだったことだろう。もしこれがQUONのお客さんであれば、そうしているかもしれない。
でもキラ君相手だと、私の中の反乱軍がどうしたって攻撃を仕掛けたがる。ライバル意識?その相手に処女を捧げようとしている私の方がよっぽど人間失格だ。
「ほんと。こりゃ鳥肌もんだわ!」
「でしょ?!」
「やべえキュンとしちゃう。」
「………」
お互い、TLごっこの恐怖を共有できたところで、キラ君が私の頬に手を添えてきた。
どうしよう。
今から始まろうとしている甘ったるい温度に、私は溶かされてしまうのだろうか。
恐くて甘いキラ君の瞳。恥ずかしくなって視線を外しても、私の頬を撫でる指で視線を引き戻されてしまう。
「ね。ちゃんとこっち、見て。」
No.1ホストの手腕にハマるのは嫌なのに。赤ずきんに甘える狼に似せてくるのが、そう悪くないと思えてしまう。
305万という解決策がなければ、キラ君をかわいいだなんて思うことはないはずだし。きっと自分が堕ちるフリなんてこともしないはず。
堕ちる気持ち良さは、今日これっきりにしよう。そう肝に銘じながら、彼の瞳に縋った。
「後悔しても、無駄なんで。」
ベッドの上では猶予を与えてもらえなかった。
それに、思った以上に優しくもなかった。
――――――……
「おやおや?だらしねー声がダダ漏れだねえ?」
「っっ」
痛い。痛いけど、そんなのはスタートダッシュだけ。
「ミウさ〜ん、ミウさーん」
「な、なに、」
「源氏名より本名で呼ばせてよ」
「やだ、絶対に、おしえないっ」
身体中が、溶かされる。吸い付かれる箇所が熱いのに、空気に触れればひやりとした感触が走って。でもまたすぐに溶かされていく。
足跡を残されていくみたいに。
「宿敵に処女差し出すとか、ミウさん相当狂ってるね」
「はっあ?」
「ん?反論できる余裕ねえって?」
これでもかと怒涛のように与えられる甘い前戯は、苦しさと紙一重だということを学んだ。



