深夜2時。休日前の仕事は、いつだって終わりを楽しみに熱が入りすぎて、身体を酷使してしまうもの。
「ミウちゃん、本当に辞めちゃうの?ミウちゃんがいなくなったらQUONの売上ガタ落ちなのよぉ。」
オネエの店長、茂道《しげみち》さんに涙目で見つめられる。もうアラフィフらしいのに、深夜帯でも肌のキメが細かすぎて思わず見つめ返してしまう。
「何言ってるんですか。QUONにはサヤ姉もコマキちゃんもいるし、Mo-menntoの誰かさんの売上で補填することだってできるじゃないですか。」
「あら、Mo-menntoとは散々張り合ってきたってのに、随分と信頼してる言い草じゃない?」
「もう辞めるんでね。どうでもよくなっただけです。」
「んもう!ミウちゃんったら、ほんっとクールなんだから!お客さんにもメンバーにも何も言わずに辞めちゃうなんて!」
「てへ。」
店長には最後に暑苦しい包容をされて、耳元でこう囁かれた。
「今後もヘルプで呼ぶかもしれないから覚悟なさい。」
いくら裏社会の圧をかけられたところで、私の中での線引はキッチリしている。線引を到達した時点で、もうこの世界に用はないのだ。
だからここでは、必要以上にメンバーとは関わってこなかった。
それなのに、なんでこいつは顔を合わせる度に突っかかってくるのか。
「おっと。今帰り?って、何そのしおれた顔」
「目の下にクマのあるやつに言われたくない」
すっぴんにセットアップ。という至福装備で店を出たところで、ちょうどキラ君に出くわした。
あんまりにもじっと顔を見てくるから、えげつない顔で睨んでおく。
「ねえ、自分でもすっぴんが最悪だってのは理解してるんだけど、気持ち悪いから見ないでくれる?」
「悪い悪い。褒める要素がどっかにないかと探してただけ。」
「女を見たらとりあえず褒めとけってその精神、尊敬するわ。」
「俺?女も、男も犬もアヒルもとりあえず褒めますけど?」
「アヒルにいつ出くわすの?」
「あそこのな、公園の池のほとりにな、」
何気なく、同じ足取りで並んで歩いていく私たち。
キラ君が“あそこの公園”だと長い指で指し示す。ちなみにあそこの公園の池に住み着いているのは、アヒルでなくカモである。
「あーっとそれより、俺今日宣誓通り3ケタいきましたー」
「わあおめでとう100万かな?101万かな??」
「200万代ですけど?」
「……201万?」
「いんや、286万。」
「ちっ」
「え?ミウさんは?ねえ、ミウさんはぁ?」
「305万。」
「……マジ?」
すっぴんで、思いっきりニヤけた顔で鼻を鳴らしてやる。



