「ばっかじゃない。あんたなんてアウトオブ眼中だし!」
キラ君から少し離れた湖のほとりで、そう叫んでしまった。
だからなのか。私に相手にしてもらえた彼は、なんとも嬉しそうな笑顔で返してきた。
「え?俺?眼中ない?夜しかお呼びでない?」
「うるさいよ!私はマリア先輩に見惚れてただけだもん!!」
「あーはいはい。嫉妬は嫉妬でも嫉妬違いってやつですか。」
「嫉妬なんてしてないってば!」
意地になって、意地を張った顔で言い返してしまった。キラ君の前だと、駄目だ。成世秋奈の私が保てない。
再び振り返って別の場所へ行こうと移動する。
でもスマホが振動して、ズボンのポケットから取り出せば。そこには電子決済アプリにメッセージが届いていた。
“受取10000円”
キラ:〈この金でもうちょい喋らして。〉
「(は……。。うそ……)」
スマホ画面を見て目を疑うよりも。少し先にいる、1万円の送り主を見た。
偉そうに腕を組み、変わらず電子タバコを吸っている。勝手に送りつけてくるとか、新手の振込詐欺を疑う。
《ねえバカなの?》
〈1万じゃ安いって?〉
《そうじゃなくって私とあんたが喋ってたら不自然でしょ?知り合いって思われたくない》
〈なら1万でリスクを負って。〉
はあ。ばからし。高いようで安いリスク。こんなリスク、1万じゃなくてもバームクーヘン一箱で十分かもしれない。
その時、たまたまスマホ画面の通知が目に入って、ラインには旭陽《あさひ》からのメッセージが入っていた。慌てて画面を開く。
〈今度一緒に飲みに行かない?〉
自分の口角が自然と上がって。胸に温かいものが宿る。
でも真上からは、違う男の声が降ってきた。
「なんかミウさんは余裕ありありな感じだったのに、成世サンは余裕ない感じだね。」
「うわっ。いきなり背後に立たないでよ!」
「マジでさ、真面目な話。QUONもMoーmentのメンバーもミウさん辞めて困ってんだわ。」
「……は、はあ?」
「とりあえず来てよ。顔出すだけでいいから。」
困ってるって何に?私、大してメンバーとは喋ってないし。Moーmentなんて尚更だ。
「あんたにとってはその場しのぎの稼ぎ場だったかもしんないけどさ、けっこう寂しがってるメンバーはいるもんだよ。」
「…………」
「あ、それと。さっきグリルでバームクーヘン作ったから食べて。」
「はい??」
「ほいじゃ。話はそれだけ。」
踵を返し、その場を後にするキラ君。
1万円分を喋り終えたらしい。ついでに、バームクーヘンもお土産につけて。
なんだか手の届かないどこかがむず痒い。



