電子タバコを持ち替える、器用な指先。その指先が、私の゙身体をなだらかになぞったのか。いやいや、私は何を考えているやら。気まずくなって顔を背ける。
頭の中に残るファインダー越しの一節は、終盤のテーブルに置かれたスマホ。スマホ画面の点灯から消える瞬間だ。あんたの指に未練など残してはいない。
そんな私の思いとは裏腹に、キラ君が電子タバコの先を、そのまま私の口に突っ込んだ。
「っ゙」
紙タバコは、昔吸ったことがある。でも電子タバコの経験はこれが初めてだ。
“吸って。”と一瞬目で合図されたので、話を進ませるためにも吸ってみる。
気管支から肺にすとん、と腑に落ちたような甘いはちみつ。キラ君が、私の口から電子タバコを取って、私を覗き込む。
「正解。」
美味しいとも、不味いともレポートをお伝えできない。男って甘いタバコ苦手なんじゃない?
知りたくもない彼の嗜好を詮索する気にもなれず。そのため私は皮肉で間を切り裂いた。
「…305万円、ちゃんと電子決済で完済したじゃん。」
「うん、したねえ。」
「なら、なんで私に話しかけてくるの?」
「同じ営業マンとして挨拶してるだけですよ?」
「どんな理由で営業になったかは知らないけど、わざわざここに来て私と喋る必要はないでしょ。どっかいってよ!」
「金の切れ目が縁の切れ目?それか、処女の切れ目?」
「うるさい。ほんとやめて。キャバのこと会社でチクったら、あんたも道連れだから。」
フンッと可愛くない背中を向けてやれば、ふふっと笑いを漏らすキラ君。煙が後ろから舞ってくる。
こういう女の拒絶みたいなことにも余裕そうで。この人、きっとナイフで刺されても笑っていられると思う。
「てかさ、俺がALISSで働いてること知らなかったの?」
「……」
「俺は知ってたよ。だから会社ではあんたを避けてたし。落ち度はそっちにあるんじゃね?」
「っ、いいい今は避けてないじゃん!」
「言ったじゃん。戦線離脱されたのが気に食わないから営業にきましたって。」
「嘘だね。そんなことで転身するバカがいてたまるか。」
「フットワークの軽いバッカで〜す。」
「…転身をフットワークの軽さで片付けるバカ。」
なんでよりによっておんなじ会社?なんで私、こんな会社に派遣入社した?なんで何も気づかずキラ君に処女捧げた??
しょうがないじゃん。営業とSEなんてほとんど関わりないんだし。見た目だって魔界の帝王から地味丸メガネだし。
自分の失態が明るみになっているのに、それを認められず意地を張りたい年頃なのだ。余裕のない独身女性が、生きにくい生き方をして周りを突き放しているいい例である。
湖から、知らないどこかに歩いていこうとすれば、キラ君が臆せず話しかけてくる。
「さっき、見てたね」
「…………」
「あの人に妬いた?」
「……は?」
「なんだっけ、ドキンちゃんの子分みたいな名前の人」
「………コキンちゃん?」
「俺とコキンちゃん、一緒にいるの見て、妬いた?」
何の話か分からず、無視してそのまま歩いていく。やく?焼く??何言ってるの海老の形態プロ。海老でも並べて焼いてなよ。
でも歩いている途中、ジワジワと、その話の意味が理解できてくる。
ああ。もしかして。さっきの、私が丘から見てた、マリア先輩と古今さんのことを言ってる?確かにそこにはあんたもいたけど。
え?自意識過剰がすごくないキラ君。
どうしても笑えてきて、思わず吹き出してしまう。笑いをこらえる会社の成世はいない。



