七三倉晩がさり気なくトングで海老の山を崩し、グリルに綺麗に並べていく。ちゃんと海老が全員同じ向きで生真面目に背中を丸めている。すぐに色を赤くした。
やだやだ職業病。カクテル作るキャバに、海老を綺麗に焼くホスト。なんでこの席、メイン担当が2人もついてるの。
「七三倉君それって超意味深発言〜。もっとツッコんで聞いていい?」
「いいですよ。序章から百章までなら語れます。」
いやいや。私とあんたとの間に百物語どころか短編も存在しないでしょう。それに離脱ってなに?離脱?この私が?ウフこのお馬鹿。
大体キャバ卒業したのなんてまだ3ヶ月前の話だし。もし私のキャバ卒業を恨んで営業に来たのだとしたら、自分どんな速さで営業に転身したの。
七三倉晩のメガネが、グリルの煙により曇り始める。そっとメガネを外す様は、まさに『俺、王子ですけど』と鼻にかけているやり方だ。
昼間の健全なBBQの場でもそんな風に見えてしまうのは、私の性格が腐っているせいだとでもいうの七三倉ヴァン。
目の前にいるマリア先輩が、ふと焼かれた海老から七三倉晩に視線を移す。そして、パアッと羨望に似た眼差しを向けた。夜の帝王が、破天荒マリアを落としにきたのだとしたらそれはそれで見ものだ。
「え、七三倉くんって、誰かに似てる……!」
「はい?」
メガネをシャツの裾で拭う七三倉晩が、いいタイミングで首を傾げる。あざとさむい七三倉ヴァン。そのままポキっと首を折ってやりたい。
「あーっと、ほら、ビジュアル系の!」
「あー…V系っすか。たまに言われるんですけど、俺V系よく知らないんですよね。」
「ラルクのhydeじゃない?」
「いやSOPHIAの松岡さんっしょ〜!」
西條さんと野口さんが交互に発言した。
今更年代が古い事実は咎めない。でもその2人なら私も知っているし、なんならうちの店でもキラ君は彼らに似ていると噂されていた。V系を代表する神々しい存在に大変失礼だと思う。
「光栄ですありがとうございます。峯田さん。」
V系知らないって言っていたのはどこのどいつだ。しかも初めましての場でも、ちゃっかりマリア先輩の名前を覚えてるとかさすがだわ。
「hydeといえばさー、成世ちゃんってちょっとあの人に似てない?」
「……え?誰ですか?」
「お天気キャスターの!なんとかなんとか!」
「…(だれ。)」
「マリア先輩!お天気キャスターの時点で言いすぎだって!」
「成世はいいとこガイガンっすよ〜」
野口さんの言うガイガンが何かは追求しない。
でもうつむき加減にメガネをかける七三倉晩が、「あゝ」と思い出すような感嘆詞をこぼした。



