「ALISSの業績は、この俺、七三倉と皆さんで着々と上げていきましょう。成世さんが勝手に一人で意気込んでもどうにもなりませーん。協調性がない上に話のスケールがでかすぎてドン引きでーす。」
どっと、会場内が湧き上がる。
私の時は皆失笑していたのに、今この男の挨拶は爆笑だ。
芸人並のステージを目指しているわけではないけれど、オーディエンスの反応は実直な結果の全てだ。
悔しくて、七三倉に睨みを利かせて。それからマイクをぶん取った私は、感情的なパンチラインをお見舞いする。
「地味と純朴さと営業成績では負けませんから!」
七三倉、ヴァンめ。
じっと、そのメガネの奥を見据えてやる。メガネグラスの向こうには、ヘーゼルイエローの瞳。私の視界が、何かを瞬間的に感じ取る。
――――な。
や。いやないない
あるはずがない。だって、私はもう二度と会うことはないと思って処女を断ったのだ。
あってたまるか。
野口さんのルールに従い、私も「カ行」の源氏名は絶対に言いたくない。とりあえず不意に視線を反らしーの、そこからまたチラリと彼の顔を覗き込む。
『ミ』『ウ』『さ』『ん』『。』
嘘ー…………うッっそ
口パクで私の夜の名を口にする、夜の男。一気に心臓をつかみ上げられた気分。カツアゲするくらいなら上層部に賃上げ要求すべき。
黒黒しい恰好にトパーズがはめ込まれたDOLLのような姿。このようなレクリエーション広場でも人間味がない。
色々言いたい、ようで、やっぱり今すぐコメダに退避したい。でもとりあえずこれだけは言いたい。言わせてほしい。オレの話を聞け。
七三倉って何。
七三倉って名前なのに、なんで今日は髪型、七三じゃないの――――?
マイクを持つ手が震える。
周りから「いいぞ成世もっとやれ!!」などと野次が飛ばされる。
そして目の前の彼、七三倉晩には小声で囁かれた。
『地味と純朴?笑わせるなよNo.1さま。』
七三倉晩こと、キラ君が私を見下し口角を一気に吊り上げる。本性を現したな、魔界の帝王。
あんたを笑わせる気はサラサラない。むしろ根っこから潰してやろうじゃないの私の処女を喪失させた男。
今だ震える私の手首を、グッとつかみ自分の元に持っていったキラ君。前後逆転する挨拶文をマイクに響かせた。
「以上、この度営業部に転任しました、七三倉晩がお送りしましたー」
私の表情が久しく引きつった。
オレの墓標に名はいらぬ。



