屋内のBBQスペース。本日の春闘、組合員約80名が集まる中、西條さんがギャランドゥ並のイケボを響かせる。
「地方組合員の皆様!現場で交渉に当たられた組合員の皆様、そして現在進行形で交渉にあたっている皆様のご奮闘に感謝し、敬意を表します!本当にありがとうございます!
今後も賃上げの意思表示を団結して叫んでいきましょう!ギャランドゥ!間違えた!えいえい、オーーー!!」
西條さんの後に続き、やる気のない声がまばらに上がる。
野口さんが「よっ。令和の西城秀樹!」とフォローで繋いだ。この後に挨拶をする私の身にもなってほしい。
「では続きましてー、新しい組合員様から挨拶がございます。千葉支部営業3課の、成世秋奈様、お願いします!」
野口さんからマイクを受け取った私。野口さんには『笑顔笑顔。コラ。』と表情を指摘された。
十分私の心は笑顔です。
「幕張地区組合員の皆様、初めまして。この度派遣より社員として新たなスタートを切ることとなりました、成世秋奈と申します。」
ポーカーフェイス。無表情。でも声はハキハキと。成世はこういった挨拶にも特に動揺することはない。
結婚式のスピーチは頼まれないけれど、AI音声の声真似には自信がある。抑揚のない成世のスピーチは、いつの時代かAIの代役として使われると信じている。
むしろ、今は宣戦布告の場としてふさわしいではないか。
「“仕事は円滑に、ダサくとも結果が全て”をモットーに掲げる精神で、ALISSの業績は私に任せて頂ければと思う所存です。」
春闘の場で何を言っているのか。目の前に広がる社員たちの顔がそう言っている。話のスケールがでかい。でもなんか面白い。いいぞ成世、もっとやれ。
挨拶とは、いかに自分の話に耳を傾けさせるかがポイントだ。
結婚式のスピーチで、長々と温和な文章を連ねるよりも、「今しがた上がった花火のように、お二人の愛が散らないことを祈ります!」と言った方が断然ウケがいい。(多分)
無感情な私の挨拶が終わり、野口さんにマイクを渡そうと差し出せば。後ろに控えていた男にマイクを奪われた。
野口さんが慌てて「成世さんありがとうございました!では次!次は……丸メガネ君からの挨拶です!」と地声で叫んだ。
そしてマイクを奪った張本人、うねる黒髪の丸メガネ君が、マイクを持ち、成世秋奈を見てこう言ったのだ。



