西條さんから課せられる、日々のセクハラ及び下ネタの試練。最初はこれをセクハラだと理解するのに、約半年を要した。
この私に対応できない下ネタなどあってはならない。セクハラにはセクハラで対抗するのがいい。もちろん、キャバで学んだ話術だ。
その割に西條さんは、迎えに来てくれるし、車中でもマックのカフェラテを用意してくれていた。普段も良き先輩として気遣いをしてくれている。具体的な良い例は何一つ思い出せないのだけれど。
「おい見ろよ野口。マリア先輩の車にダークホースが乗ってる。」
「まじ??マリア先輩とコキンちゃんって仲いいの?!」
「知らん!でも初めてマリア先輩がいい仕事したと思える!」
コキンちゃんとは、古今冬歌《ふるいまとうか》さん(25)のことである。同じ支店の別フロア、主に個人客のサポート対応で、若いながらにしてコールサポートセンターのリーダーとして活躍しているのだ。
それでいて見た目は天使なのだから、当然男性社員は放っておかない。華奢で白くて小さくて、唇はぽってりと目元の涙袋までピュアを極めている。今日もお団子ヘアだ。
マリア先輩のハイエースには、課長や他の社員も乗り合わせていた。ロケバス並のハイエース運転できるとか、マリア先輩、仕事以外では本当に有能。
西條さんと野口さんが、自然を装う足取りでマリア専用ハイエースの元まで歩いていく。コキンちゃんに話かけにいったはずの二人は、すぐに課長と課長代理に捕まっていた。
ああみえて西條さんは中学から付き合っている彼女持ち。13歳から付き合っているらしい。でも今は遠恋中。
野口さんも確か……彼女がいたはずだ。彼女と一緒の時は、極力「カ行」は喋らないと言っていたし。「家庭」「既婚」「苦行」「結婚」「婚姻」のワードを出さないために。
二人とも典型的な自由人、飲み会は3次会まで行くタイプだ。
コキンちゃんは、マリア先輩の後をちょこちょことついて行っている。ちょっとだけジェラシー。無能なマリア先輩は、私の教育係だったのだ。
女子校みたいな嫉妬を頭の中で繰り広げていれば、女子力高めなフィガロが駐車場に入ってきた。
白とエメグリのミルキー色。私に女子力はなくとも、「あの車可愛いじゃない」という思考は持ち合わせている。
まだまだ空きの多い駐車場。にも関わらず、一番奥の遠い場所に停まったフィガロ。
カップルかな、と遠目で見ていれば、中からは黒髪の、黒いTシャツに黒いチノパンを着たメガネの男が現れた。
私のレーダーがすかさず彼をロックオンする。アイツだ。社内報に載っていた販売士試験満点の男。七三倉晩《なみくらばん》(笑)
身長は高そうだが、私に負けず劣らずの地味な雰囲気で、味噌汁は小ネギだけでも十分味噌汁だと言いそうな青年だ。どう見ても名前負けしている。
コキンちゃんにはジェラシー、黒いメガネ男にはライバル意識。
私の脳内も、大概朝からハジケている。



