「おっす成世ぇ。今日も辛気臭いな。部署の士気は確実にお前が下げてんぞ?」
「そうだぞ成世ぇ〜、嬉しいなら両手上げて喜んでみろって」
同じOA機器の営業部仲間、西條洋二《さいじょうようじ》さん(29)と野口《のぐち》英明《ひであき》さん(30)には、なぜかこのポーカーフェイスがからかわれている。
「成世はブラインドタッチまで無の骨頂だな。」
「画面にはちゃんと文章が打ち込まれてるのに、キーボードの音がミュートすぎる」
「指使いがきもい。」
「化粧が薄い」
「成世の髪の毛って伸びる時あんの?」
「成世って子供の頃から姿形が変わってなさそう」
陽キャ代表、焦げ茶髪サイドパートの西條さんと、パリピ代表、薄茶髪センターパートの野口さんに両側から成世成世と言われる日々。
しかし能面代表、シナモンベージュの成世は動じない。
いじられキャラとは無縁だった私が、この電機メーカー、ALISSに派遣入社し、絶対に営業職には向かないと、強引に営業に同行させられたのがきっかけだった。
面白いようにOA機器が売れていくというセオリーが誕生し、今回、派遣から見事正社員に昇格。ポーカーフェイスの女性営業マンが誕生した。
元々私は人前で感情を出すのが苦手で、普段はほぼ無表情。でも仕事となればいくらでも百面相が出来てしまう。
つまり、現金な私は1位を取るためならばいくらでも笑えるし泣けるし、鼻で笑えるのだ。
キャバでも営業でも、オンリーワンよりNo.1を取りに行く。
それが成世秋奈《なるせあきな》という人物。
「成世、今度の組合の春闘大会来るよな?」
「…ああ、湖で海鮮バーベキューとイチゴ狩りでしたっけ。」
「そうそう!俺と野口《のぐち》が幹事。」
「行きませ」
「来るなら初回特典で挨拶させるからな?」
「行きませ」
「心に染みるスピーチ、考えとけよナ?」
「バきゅん」と野口さんの指ピストルが、私のおでこに突きつけられた。たまらなく昭和を感じる。
正社員になれば当然色々と面倒くさいオプションがついてくる。その中でも組合はレクリエーションのイベントが満載で面倒なのだ。
「てか社員になったんだから絶対来いよ?どうせBBQ代もタダなんだし。」
「…あ…マリア先輩が来るなら行きます。」
私の言葉に、西條さんと野口さんがぐっと息を呑む。
流れるゆる髪で色気のある顔立ちの峯田《みねた》マリア先輩。普段は明るくてサバサバしているのだが、お酒が入るとサイコマリアと化す。本人を前にして悪態を当たり散らすのだ。
西條さんと野口さんは、どうせ私をサイボーグだの堅焼きせんべいだのといじり倒すのだから、ここはサイコマリアで対抗するしかない。
「マリア先輩が参加しないなら、私も参加しませ」
「サイコマリア、参加しまーーす!!」
マリア先輩が、元気よく私の後ろから声を上げた。鼓膜に響く音量でクラクラしそうになるも、私は能面を貫いた。
本日も平和である。



