ハチャメチャ☆☆ゆうえんち男子

 みんなは守りたいものってある?

 僕にはあるんだ。

 大事な居場所。

 必死に努力してつかんだ仕事。

 キラキラな瞳を向けてくれる、ちいさな子供たちの笑顔。

 顔も知らない子と指切りをしたあの約束。

 絶対に失いたくない。

 そのためならどんなことでもする。

 そう心に誓っていたけれど……

 さすがにこれは……



 ☆☆



 僕の名前は甘崎(あまざき)マイク、中学2年生。

 ファミリー向けの遊園地・野いちごランドで、子供イベントの司会のお兄さんをしているんだ。

 小さな子供たちって本当にかわいいんだよ。


 『このままじゃ怪人にやられちゃう。みんな、大きな声で野いちごレンジャーを応援して』


 ステージの上で司会の僕がお願いするとね

 『負けるな~』『頑張れ~』

 って、一生けんめい声をはりあげてくれるの。


 ヒーローショーが終わったら

 『マイクお兄さん大好き』『また会いにくるね』

 って、とびきりの笑顔をプレゼントしてくれるし。


 こんなやりがいのある仕事、他にあるのかな。
 
 パパになってもおじいちゃんになっても、この野いちごランドで司会をしたい。

 なんて、僕は本気で夢見ているんだけど。


 って、可愛い子供たちを思い出してニマニマしている場合じゃなかった。

 早くリハーサル室に行かなきゃ。

 でもってイベント監督(かんとく)を問いつめなきゃ。

 野いちごランドがなくなっちゃうんですかって。



 大きな建物の関係者入口に駆けこむ。

 廊下は歩きなさい?

 わかってるよ、中学で耳ダコだもん。

 でもごめん、それどころじゃないんだ、いい子でなんかいられない。


 廊下も走り、リハーサル室の前に着いた。

 全力ダッシュをきめこんだから、はぁはぁと息があがっちゃう。

 監督が中にいますように。

 願いながらドアを開けた瞬間、僕は固まってしまった。

 だって――


「こいつらと仲良くとかムリ! ガキすぎてつきあいきれない!」

「人に合わせようともしないジェットが、一番ガキくさいと思うのですが!」


 僕と同じ中2くらいの男子二人が、胸ぐらをつかんで怒鳴りあっていたから。


「俺のどこがガキくさいか言ってみろ!」

「テンションを一定に保てないところです!」

「楽しい時は思いっきりはじける。それでいいじゃん!」

「ガキを通り越してもはや猛獣なんですよ!」

「ムードメーカーをしてやってるだろうが。盛り上げ役をありがとうだろうが。感謝しろ、ひざまづけ、今すぐに!」

「今みたいに機嫌が悪すぎる時が最悪だって言ってるんです。怒鳴りちらされるこっちの身にもなってください!」

「んだと」

 
 どんどんエスカレートしていく言い合い。

 入る部屋をまちがえちゃったんだ。

 笑顔キープ、みんな仲良し信者、そんな僕がなじめる場所じゃない。

 そう思ってリハーサル室から出て行こうとしたのに――

 
「二人とも静かにしろ!」


 探し人の声が耳に飛びこんできて、目的地はここだったんだとがっかり。


 監督は、部屋のすみに立つ僕に気づいていない。

「とりあえず心の荒波をしずめろ」と、にらみあう二人を引き離している。


 あーあ、監督がかわいそう。
 
 努力が報われていない。

 ケンカ中の二人を見守っていた3人の男子までもが、ワーワー騒ぎだしちゃったもん。


「アハハ、二人とも怒ってる怒ってる。ジェットとカンラの頭を僕が冷やしてあげるね」

「うわっ冷たっ。ミズキ、肩にかついでるどでかい水鉄砲で水をまき散らすな!」

「私はメガネを濡らされるのが大嫌いなのですが!」

「僕にはたくさんの水をかけておくれ。水もしたたる世界一カッコいい王子様だから」

「うるさい場所ムリ……人間の悲鳴は子守歌……それ以外は雑音……お化け屋敷に帰りたい……」

「ユウ、存在感消して立ってるなよ。地縛霊とまちがえておはらいしそうになったじゃん」

「良いと言って差しあげたのに、なぜこの僕に水をかけない。その水鉄砲を貸して、自分で水浴びをする」

「うわっメリー、水鉄砲を奪うな! 俺の相棒を返せー!」


 なんと個性豊かな男の子たちなんだろう。

 5人がワチャワチャギャーギャーしているから、誰がしゃべっているのか目で追いきれない。

 彼らは僕と同じくらいの年齢だと思う。

 大人っぽい人もいる、ランドセルが似合いそうな子も。

 高校生や小学生もまざっているのかもしれない。


 って待って待って、5人全員がイケメンすぎじゃない?

 こんなに綺麗な顔の男の子たちって、この世に存在していいの?

 売れっ子アイドルよりも、キラキラオーラがあふれているんだけど。


 監督はあきれ顔で両手をパンパン、リハーサル室の空気を引き締めた。


「ちゃんとしろ、これは遊びじゃないんだ。やることやらないと人間食を用意してやらないぞ!」


 人間食?

 聞きなれない言葉に、僕の顔が横に傾く。


「メシなしって鬼かよ」

「人間の体になると無駄にエネルギーが消費されるんです。食事を与えてもらえないのは困ります」

「聞いて聞いて、すごい発見したんだよ。人間の姿でいるとね、水にぷかぷか浮かんでるだけでお腹がすくの」

「知らないお姉さんたちが食べ物を買ってくれた……昨日のこと……遊園地の中を歩いてた時……嬉しかった……おいしかった……ジュースもくれた……」

「僕なんてメリーゴーランドに乗っていたら、本物の王子様がいたって写真をパシャパシャとられたんだ。やっぱり僕の魅力は隠せないか。罪な男でソーリー」


 ほんと協調性がない5人だな。

 相手の目を見て話を聞く。

 うなづき大事。

 そう小学校で習わらなかった?
 
 それにしても、誰も僕に気づいてくれないなんて悲しくなっちゃう。


「監督、おはようございます……」


 僕はここにいますとアピールしたくて、声を震わせてみた。

「えっマイク、いたのか」と目を見開いた監督に「おつかれさまです」と苦笑いを返す。


「ごめんな、こいつら黙らせるのに必死で気づかなかった」


 スーツが似合いすぎていてイケメン若社長にも見える監督が、僕の前に来た。

 聞きたいことは山ほどある。

 野いちごランドがなくなるってほんとですか?

 このイケメン5人は何者なんですか?

 でも一番気になるのは――


「あの……人間食というのは……」

「こいつらは人外なんだ」


 えっ?

 いま監督の口から、闇メルヘン仕様の言葉がこぼれたような。


「人間じゃないってことですか?」


 ここにいる5人とも目も鼻も口もある。

 手足だって長いし、どこからどう見ても人間にしか見えないけれど。


「5人全員が妖精なんだよ」

「よよよよっ、妖精?」

「ああ」

「監督、真顔で冗談を飛ばすのはやめてもらえませんか」

「びっくりさせてごめんなマイク、これマジな話」

「おとぎ話にでてくるあの妖精? 彼らが? いやいやそんなはずは……」


 僕はまだ信じられない。

 焦った目玉が、カメレオンみたいにグルグル回ってしまう。


「おまえらマイクに疑われてるぞ。本物の妖精だってとこ見せてやれよ」

「俺だって妖精の姿に戻りたいんだけど!」

「監督に正体を知られてから、私たち5人とも妖精に戻れなくなったんですが!」


 眉を吊り上げ、語気を強めた黒髪赤メッシュくんと緑髪メガネくん。

 他3人のイケメンにも睨まれ「ああそうだったな、悪い悪い」と監督は頭をかいている。


「え、本物? ええっ?」

「マイクが戸惑うのも無理はないか。虫にしてはデカいのが飛んでるなと思ったら、手乗りサイズのこいつらで。羽も生えてたんだぞ。うわって驚いて、こいつらを手ではたき落としそうになったし。アハハ」
 

 いやいや監督、笑ってる場合じゃなくないですか?
 
 妖精が人間になった? 

 そもそもこの世に妖精なんて存在するの?

 この話が本当なら、お化けやゾンビが実在しててもおかしくないってことになっちゃうよ。


 死神がでっかいカマを持って現れたらどうしよう。

 僕はこれからも司会をやりたいんです、見逃してください、そう言いながら土下座をしなきゃじゃん。

 破壊神の手からビームが出て、地球ドカン!

 ……もうイヤ、怖すぎる、考えるのはよそう。


「彼らが妖精だって知ってるのは、俺とマイクだけだ。絶対誰にも言うなよ」


 監督にお願いされ、脳内パニックのままとりあえずコクリ。


「マイクに一人ずつ自己紹介!」


 パンパンと手を叩いた音が部屋に響くと、5人はしぶしぶ一列に並びだした。

 みんな人間にしか見えない。
 
 国宝級の美しいお顔をおもちなところは、妖精なのかもと思えてしまう。

 さっきまで一番怒鳴っていた男子が、赤メッシュの入った黒髪をかきあげながら面倒くさそうに口を開いた。


「俺はジェット。ジェットコースターの妖精。以上」

「それだけ?」と監督は不満そう。

「楽しい時は笑うしムカつくときは怒る。何を考えてるかわかりやすいってこいつらに言われる。あとは勝手に俺観察してくれればいいよ、こんどこそ以上」


 ジェットコースターのジェットくんと目が合った。

 八重歯を光らせ微笑んでくれた。

 うわぁ大人っぽい。

 悪者をばっさばっさ剣で倒す騎士みたい。

 言葉が乱暴だから、魔王様に見えなくもないけど。


「次はメガネのこいつ」


 ジェットくんのひじが、緑髪男子の横っ腹に刺さっている。


「暴力は反対ですと、何度もお伝えしていますよね」

「心と体のぶつかり合いが妖精の感情表現だろうが」

「まぁジェットからのどつきと怒鳴りは慣れっこですが」


 諦めたように手を広げている緑髪の男の子が、人差し指でメガネを上げた。

 僕を見てにっこりおっとり。

「お見苦しいところをさらしてしまい申しわけありません」と丁寧に頭をさげたから、僕もつられて頭をぺこり。


「私は観覧車の妖精です。高い所から遊園地全体を見渡すのが大好きなんですよ」


 優しい笑顔の花が咲き誇っている。

 陽だまりみたいな彼の雰囲気は、お姫様のお世話をする執事のよう。


 でもでも優しい表情が崩れるのもあっという間で

「こいつの名前はカンラ。名前くらいちゃんと名乗れ」

 ジェットくんが文句を言ったから、観覧車の妖精さんの目が吊り上がっちゃった。


「観覧車のカンラと名乗るつもりだったんです。私の代わりに名前を伝えてくれて、あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・し・た!」

「ど・う・い・た・し・ま・し・て!」

「「 フンっ!! 」」


 どうやらジェットコースターと観覧車は、ちっちゃなことで衝突しやすいらしい。

 二人はムスッとした顔で腕を組み、背中を向けあっている。


「喧嘩したときは水、水、水!」


 大ジャンプで飛び出し、残りの4人全員に肩に担いだ水鉄砲で水をかけまくっているのは水色の髪の男の子。


「また水をかけられた!」

「メガネが濡れるのが嫌だと何度も伝えていますよね!」


「やっぱり僕は、水も滴る世界一カッコいい王子様だ」と、鏡に映る自分の美しさに見とれている人も一名いるけれど、水色の髪の男の子は気にもとめていない。

 怒っている男の子たちを無視して、僕の前に来た。


「ねえねえ流れるプール好き? 俺は大好き。一日中浮き輪の穴にお尻を突っ込んで、ぷかぷか浮いていたいもん」


 白い歯を見せながらニカッと笑った顔は、人懐っこくてヤンチャな子犬にも見える。

「泳ぐのも水遊びも好きだよ」と僕が答えたら、さらにニンマリ。


「でしょでしょ。水の中って気持ちいいよね。陸の上ってめんどいぃ。立ってるだけで足の疲労感半端ないぃ」


「自己紹介、名前大事!」とジェットくんに強めに怒られても、精神的ダメージがゼロらしい。

「好きにしゃべらせてよぉ」と、水色の髪を踊らせながらケラケラと笑っている。


「俺は流れるプールの妖精・ミズキ。ミズキって名前はカンラがつけてくれた。ジェットからプールって名前を付けられそうになったんだよ。いや無理って思うじゃん。全力で反対してよかった。ミズキって響きが気に入ってるんだ」


 ミズキくんはニコニコで肩を揺らしながらしゃべるから、嬉しさが伝染しちゃった。

 僕のほっぺが勝手に緩んじゃう。


「で、このちっこくて猫背なのがユウ」


 僕と目を合わせず、うつむきっぱなしの男の子が1名。

 おどおどしている彼の肩に腕をまわしたミズキくんに続き、他のメンバーもしゃべりだす。


「ユウはお化け屋敷の妖精です」

「そのくせビビり」

「この前監督に黒いランドセルを背負わされてて、すっごく似合ってたんだよ。泣きだしそうなユウのお顔は、プリンセスよりもプリティーだったね」


「本人にしゃべらせてあげろよ」と監督に責められたジェットくんたち4人は、ふてくされたように口を閉じている。

 紫髪の男の子は、うつむいたままか細い声をだした。


「ユウです、幽霊です……今のはボケです……僕は幽霊じゃなくて妖精です……なのにツッコミこなかった……がっかりした……悲しい……」


 一切笑わず、無表情のまま上目遣いで見つめられ

「お化け屋敷の妖精だって緑の髪の……そう、流れるプールくんが言ってたね」

 ヒヤヒヤしながら、僕はなんとか顔に笑顔をはりつけた。


「プールではなく私は観覧車ですが」とメガネキランで睨まれたけど、今はカンラくんにかまっている場合じゃない。


 ツッコまなきゃ。

 えっと、えっと……


「幽霊なのにランドセルを背負えるってなんでやねん! 体が透けてるんじゃないんかい! ランドセル落ちないんかい!」


 お笑い芸人になりきって、ユウくんのお腹に手の甲を当ててみた。


「面白くない……残念……0点……さようなら……」


 冷たい目のユウくんにがっかりされて、シュンと僕の肩がさがる。


 そんな僕の前に、一人の男の子が優雅に歩いてきた。

 金色の髪に青い瞳。

 真っ白なタキシードが、麗しいお顔に似合うこと似合うこと。


 海外の王子様に見えるけれど、行動がおかしいような。

 なんで今、僕の目の前で無駄にターンしたの? 

 真っ赤なバラを口にくわえているけれど、どこから出した?

 金髪の男の子は僕の肩にひじをのせ、くわえていたバラを手に持ち僕の顔の前に。


「僕はメリーゴーランドの妖精、メリー。このバラを君にプレゼントするね」


 きざっぽくウインクを飛ばされた。

 警戒心が生まれてしまった。

 少しでも彼から離れなきゃ。

 肩にのった彼の腕を振り落とすように、横にぴょんと跳ねる。

 金髪の男の子は不満そう。


「なぜ僕からの愛を受け取らない?」

「えっと……」

「こんなに美しいこの僕・メリー王子からのプレゼントなら、世界中の女の子はもちろん男の子だって目をウルウルさせて大喜びするものだよ」

「口にくわえたものは……ちょっと……」

「僕の口のなかが汚いとでも?」

「触りたく……は、ないかな……」

「アァァァァァ! オーマイガー!」


 白タキシードの王子様は、頭を抱えてしゃがみこんでしまいました。


「メリーのメンタルをズタボロにするとは、なかなか面白いヤツだな」


 ジェットくんが八重歯をちらつかせながら、クククと笑っている。

 ほめられたってことでいいんだよね。

 今度は僕が自己紹介をしなきゃ。

 背筋を伸ばして一歩前に。

 彼ら5人に穏やかな笑みを飛ばす。


「中学2年の甘崎マイクです。この遊園地のイベントステージで……」

「知っていますよ。野いちごレンジャーショーの司会をされていますね」


 カンラくんのメガネの奥の目元が、アーチ状にゆるんでいる。


「俺らいつも、ステージでしゃべるマイクを妖精の姿で見に行ってたもん」


 水鉄砲を持ってないほうの手で鼻の下をさすっているのは、ミズキくんだ。


「遊園地の中でもよく見る……子供たちに囲まれてる……マイクは人気者……ずるい……うらやましい……呪ってやる……」


 萌え袖で口元を隠しながら、ユウくんがぼそぼそとしゃべれば


「まぁ、ステージであれだけ子供たちの心を掴む司会をしてるんだから当然じゃん」


 ジェットくんが凛とした瞳で僕を誉めてくれたから、ハートがくすぐったくなっちゃった。


「この僕のバラを受け取らなかったマイクの顔と名前は、来世でも絶対に忘れない」

 
 メリー君が抱く僕への恨みは根深いらしい。

 艶のあるほっぺを膨らまして、ユウくんの後ろから僕をジッと睨んでくる。


 そうだ、妖精くんたちに初めましてのご挨拶をしている場合じゃなかった。

 野いちごランドが閉園しちゃうのか、監督に聞きたくてリハーサル室に来たんだった。

 
 大事なことを思い出し、監督の前に進む。

 真実を知るのが怖い。

 肩に力が入り、無駄に唇をかみしめてしまう。


「あの……監督……」

「どうしたマイク、顔色が悪いけど」


 怖がってちゃダメだ。

 ちゃんと聞かなきゃ。


「おっ、教えてください」

「何をだ?」

「本当になくなっちゃうんですか?」


 僕が切羽詰まった顔をしていたんだろう。


「ああ、そのことか」と、監督は悲しそうな顔でうつむいてしまった。


 間違いない、野いちごランドが閉園の危機にさらされているんだ。


「絶対にイヤです!」


 絶望に襲われ、声が荒ぶってしまう。


「僕はこれからも司会をしたいんです!」


 声を荒らげれば荒らげるほど、涙が製造されてしまう。


「たくさんの子供たちを笑顔にしたいんです!」


 いつの間にか僕の頬に、悔し涙が伝っていた。


「僕にできることはありませんか? 何もしないままなくなっちゃうなんて耐えられません!」


 だって野いちごランドは、僕の大切な居場所だから。

 僕はこのステージでしか輝けない。

 それに大事な約束を交わした場所でもある。

 『たくさんの人を笑顔にしようね。私もマイクも。約束だよ』

 幼稚園の時だから、相手の顔は覚えていない。

 それ以外の記憶もない。

 でも僕の部屋の宝箱の中には、その時にその子からもらった星がたのヘアピンが大事にしまわれている。

 髪につけていたものを、僕にプレゼントしてくれたんだ。


 ひっきりなしにあふれる涙。

 中2なのに人前で泣くなんて情けない。

 そう思うのに悲しくて悔しくて、野いちごランドがなくなってしまう現実を受け止めきれない。


「まさかマイクに勘づかれるとは思わなかったよ」

 深いため息をはいた監督は

「まきこんでいいか悩んでいたんだ。でもマイクに頼るしかないんだよな」

 と、何かに納得したようにうなづきだした。


 凛とした監督の目が、涙で潤んだ僕の目をじっと見つめてくる。


「マイク、頼みがある」

「遠慮なく言ってください」

「この妖精5人とアイドルをやって欲しい」

 
 任せてください。

 この僕が野いちごランドを救ってみせます……って……。

 えっ、愛……ドル?


 予想外すぎて声にならなかった。

 驚きが強すぎて、涙が引っこんでしまった。

 アイドルって、ステージの上で歌やダンスを披露するあのアイドルだよね?


 僕はただの司会者だ。

 イベントを盛り上げるための脇役と言ってもいい。

 主役になろうなんて思ったことは一度もない。

 そもそも歌やダンスは得意じゃないし。


 でも……と、考え込みながら天井をあおぐ。

 これは監督が考えた作戦なんだ。

 お客さんが減って閉園の危機に直面している野いちごランド。

 赤字の遊園地を救うため、大人気アイドルを作り上げてお客さんを呼びこむ計画で間違いない。


 イケメンのジェットくんたち5人は華がある。

 妖精だからか、人をひきつけるキラキラオーラを無意識に放出しているし。

 日本だけじゃなく、世界中から愛される存在になりえるかもしれない。

 その中に平凡な僕が入っちゃったら、グループの価値が落ちちゃう気もしなくもないけど。


「不安なんだよ。人間の常識を知らない妖精だけじゃ」と監督。


「マイクはグループ内の癒し系ポジ。司会をするときみたいに、人懐っこい笑顔で元気に歌って踊ってくれればいいよ」


 自分の良さを誉められ、心がジーンと温かくなり、やっと決意が固まった。


「わかりました監督、僕はアイドルをがんばってみます」

「そうか、やってくれるか」

「はい」

「良かった、本当に助かった」と僕の手を握りしめ、嬉しそうに全力で上下に振っている監督。

 喜ぶ監督とは正反対、ジェットくんたち5人は顔をしかめている。


「マイク、本当にいいのか?」


 こんな僕でも協力できることがあって嬉しいんだよと伝えたくて、ジェットくんに笑顔でうなづく。


「あなたは野いちごレンジャーのように、必殺技が使えるわけではありませんよね」


 必殺技って、お客さんの心を掴む派手なダンスができるかってことかな?

 カンラくん、心配してくれてありがとう。

 ダンスは苦手だから、これから必死に練習するよ。


「俺たちだってビビってるのに、マイクって勇気あるんだね」


 怒鳴りあうジェットくんとカンラくんに水鉄砲の水をかけちゃうメンタル強強のミズキくんでも、ビビることなんてあるんだ。


「人をかばって自分を犠牲にしそう……残念……無念……さようなら……」


 アイドル活動で他人をかばう場面なんて、ないと思うけど。

 ユウくんは誰かの後ろに隠れてばかりだけど、そんな恥ずかしがり屋さんでステージに立てるの? 

 アイドルできる? 大丈夫?
 

「すみかを守るためとはいえ、自分の命を一番大事にしようね。君も僕も」


 不気味な笑みを浮かべるメリーくんが、なんか怖い。

 王子様っていうよりも、悪い魔法使いに見えちゃう。



 5人のトークに闇っぽい意味不明ワードがちりばめられていた。

 必殺技とか、自分を犠牲にとか、命を大事にとか。
 
 彼らはいったい何の話をしているの?

 首を横にかたむけ、リーダー感の強いジェットくんにハテナを飛ばす。


「ねえジェットくん、赤字でつぶれそうな野いちごランドにお客さんを呼び込むため、僕と君たちはアイドルを結成するんだよね?」

「赤字? は? 野いちごランドが? 全くもって違うけど」

「えっ……でもさっき監督が、野いちごランドを守るためにアイドルになってって僕にお願いしてきたし……」

「野いちごランドとは一言も言ってなかった」

「確かに……そうだったかも……」

「破壊の危機が迫ってるのは地球」

「えぇぇぇぇぇ?!」

「マイク、声大きすぎ。いきなり叫ぶから耳痛ってなった」

「ごめんね、司会のトレーニングで大声を出す特訓を毎日してるから……って、それどころじゃなくて。今ジェットくんは言ったよね? 地球が危機だって」

「ああ、宇宙人に地球を壊されそうになってるんだよ」

「宇宙人?!」

「だからボリューム!」

「ごめん、びっくりしすぎると声量をしぼれないんだ」

「宇宙人とアイドル対決をして俺たちが負けたら、地球はこっぱみじんだって」

「さすがに信じられない。ジェットくんたちが妖精なのは信じられる。やっと信じられた。でもでも……宇宙人とか……地球がこっぱみじんとか……」

「だから妖精の俺たちとマイクで力を合わせようって話。宇宙人相手に俺たちが地球を守るしかないんだから。そんなこと言っても、俺も今やっと覚悟ができたんだけど」


 ジェットくんが僕の両肩に手を置いた。

 放心状態の僕は、目をパチパチさせて固まるのみ。


 僕の使命は野いちごランドを救うなんていう、なまやさしいことじゃない。

 アイドル対決をしかける宇宙人から、地球を守ること。

 
 ちょっと待って、ムリムリ、頭が追いつかない。

 パニックになりすぎて、この場で失神しちゃいそうなんですけど。