拓巳に知られるわけにはいかない。

拓巳が知ったらきっと結婚しようと言うんじゃないかしら。

例え私に愛情が無くても、きっと子どもの為にそう言うと思う。

そんなのはイヤだ。

拓巳の人生を狂わせるなんてイヤだ。

子どもの為に結婚するなんて言われるのは絶対にイヤだ。

オーナーは私の入院の事をきっと誰かに知らせるだろう。

身分証明になるものは持っていない。

だけど携帯を調べれば実家の電話番号くらいすぐに判るだろう。

実家に電話をするのならまだいい。

電源を切る事で拓巳からの連絡を断っていた私の携帯は、多分電源を入れると同時に拓巳からのメールが山のように届くだろう。

それを見たらオーナーは先ず拓巳に連絡を取るんじゃないだろうか。

発着信の履歴が一番多くて、しかも電源を入れると何通もメールが届く男なんて…普通は誰もが恋人だと思うわよね。

オーナーがもし、拓巳に連絡を取っていたら、彼は間違いなく迎えに来ると思う。

ダメ、会えないよ。

拓巳に会ったらこの気持ちが溢れて止まらなくなる。

想いを告げてその腕に飛び込みたくなる。


ここを出なくちゃいけない。

拓巳が追ってくるその前に…。