重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


数年後——。
駅前の小さなカフェ『SPACE(スペース)』は、今日も穏やかな午後を迎えていた。

昼はカフェ・ルミエールで働きながら開業資金を貯め、夜は製菓専門学校に通い、さらに介護施設や保育園でボランティアとして菓子作りを続けた日々。
その努力が実を結び、全国洋菓子コンクールで入賞を果たした結月は、ついに夢だった自分のカフェを開業した。

『宇宙飛行士がいるカフェのケーキが超美味しい!』
 そんな噂が広まり、カフェ『SPACE』は今や地元の人気店だ。

 店内の奥、カウンターの中では、エプロン姿の昊が黙々と洗い物をしている。
 本職は宇宙飛行士。
 任務の合間に、こうして時々手伝いに来てくれる。

「旦那さん、今日もお皿洗ってるの?」

 カウンター越しに声をかけたのは、近所の常連客。

「はい。お風呂掃除も担当です。妻が笑ってくれるなら、何度でも叱られたいので」

 昊は真顔で答える。

「ちょ、ちょっと! そういうことは言わなくていいってば!」

 結月が慌ててツッコむと、店内に笑いが広がった。
 そこへ、ドアが開いて一人の女性が入ってくる。

「お兄ちゃん、今日も『叱られリスト』更新してるの?」

 昊の妹・美羽が、「結月さん、ブレンドね~」といつもの調子でオーダーした。