重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 自宅の中は、静まり返っていた。
 結月が去ってから数日。
 昊は再適応訓練の報告書提出と記者会見を終え、自宅へ戻って来た。

 ダイニングテーブルの上には、結月が作った焼き菓子がまだある。
 全部食べ終えてしまったら、結月との繋がりが全て消えてしまいそうで、昊は手を付けれなかったのだ。

 リビングには、結月が使っていたひざ掛けと読みかけの本が置かれている。
 両方とも昊の私物だから、結月は置いていった。

 結月が生活していたという証があるのに、もう結月の姿はそこにはない。

 昊はゆっくりとソファに腰を下ろす。
 ふと視線を上げると、テレビボードの棚の中に、見慣れたノートが置かれていた。
 宇宙へ出発する前に、結月に手渡した、あのノートだ。

 それを手に取り、そっとページを捲る。
 昊との通信時に話題に事欠かないように、用意しておいた話題リスト。
 そのノートの最後のページに、結月の文字でこう書かれていた。

『帰ってきたら、ちゃんと話しましょう』