重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 昊が地球に帰還してから、十日が経っていた。
 無事に任務後の健康観察と再適応訓練を終え、漸く日常生活への復帰が許可されたその日。
 昊は、迷いなく自宅のドアを開けた。

 玄関ドアの先は、ほんのりと懐かしい香りが漂っていた。
 靴が一足、きちんと揃えて置かれている。
 リビングの奥から、静かな足音が近づいて来た。

「……おかえりなさい、昊さん」

 結月が、変わらぬ穏やかな声で出迎えた。
 けれどその表情はどこか他人行儀で、少しだけぎこちない。

「只今戻りました」

 昊はブーツを脱ぎ、ゆっくりとリビングへと進む。
 テーブルの上には、結月お手製の焼き菓子が並ぶ。

 結月は昊の隣に座り、ゆっくりと視線を持ち上げる。
 三か月ぶりに視線が絡み、どちらからともなく笑みが零れる。

「……お疲れさまでした。無事に帰って来てくれて、本当によかったです」
「結月のお陰だよ……ありがとう」

 昊は一呼吸置いて、真っすぐに言葉を紡いだ。

「契約は、ここで終わりにしよう」