重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


「でも、いいと思うよ。そういうの。“好き”って言葉にする前に、もう全部に出ちゃってるの、余計に心に響くよね」

 結月は、カウンターの端に視線を落としたまま、そっと呟いた。

「……会いたいな」

その言葉は、誰に向けたわけでもなく、ただ自然とこぼれ落ちた。

 陽翔はその声を聞いて、少しだけ目を細めた。

「……そっか。じゃあ、ちゃんと伝えなきゃね。宇宙にいるあの人に、“地球は今日も平和です”って」

 結月は思わず笑ってしまった。

「……それ、昊さんが言いそう」
「でしょ? 俺、けっこう彼のこと、分かって来たかも」

 陽翔は冗談めかして言いながら、結月が置いたコーヒーに口をつけた。

「でもさ、俺は思うんだよね。あの人、君の声があるだけで、宇宙でもちゃんと地球を感じられてるんじゃないかなって」

 結月は、ふと昊の言葉を思い出した。
――君の声がないと、地球の音が思い出せないんです。
 胸の奥が、じんわりとあたたかくなる。

「……じゃあ、また録音、送ってみようかな。今日の空の色と……あと、焼き菓子の話も」
「いいね。あと、俺のどうでもいい話も混ぜといて」
「それ、リストにちゃんと入ってますよ」
「マジか。……それはそれで、ちょっと嬉しいな」

 二人の笑い声が、カフェの静かな空気にふわりと溶けていく。
 その中で、結月の心には、ひとつの決意が芽生えていた。