カフェ・ルミエールの夕方は、緩やかな時間が流れていた。
常連客もまばらで、店内にはジャズのBGMが静かに響いている。
結月はカウンターの奥で焼き上がったフィナンシェを冷ましながら、ふと窓の外に目をやった。
冬の空は、もうすっかり夕暮れ色に染まっている。
「お、今日も頑張ってるね」
聞き慣れた声に振り返ると、陽翔がマフラーを外しながらカウンター席に腰を下ろしていた。
「いらっしゃいませ。……いつもの、ですか?」
「うん、ブレンドで。あと、甘いやつ。今日は凄く疲れたから」
「了解です。……お仕事、お疲れさまです」
結月は微笑みながら、コーヒーを淹れ始めた。
陽翔はその様子をじっと見つめながら、ふと口を開く。
「……最近、ちょっと顔つきが変わったね」
「え?」
「なんかこう……“決めた人の顔”って感じ」
結月は思わず手を止めた。
「……そんなに分かりやすいですか?」
「うん。後ね、彼の話になると、声のトーンが0.7オクターブ上がってる」
「……えっ、それ……」
結月は目を見開いた。
「昊さんと同じこと言ってる……」
「マジで? やっぱり旦那さんだと、ちゃんと見てるんだね~」
陽翔はくすっと笑いながら、カップを受け取った。



