重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


「なら、もっと自信を持って! 彼を狙ってる人、私以外にもいるんだからね」
「えっ?!」

 その一言に、結月は固まってしまった。

「ほら、そういうところ。あんなにも素敵な人の妻になったんだから、もっと胸張っていいのよ。彼が帰って来たくなるように、彼の重力になってあげて」
「フフッ。それ、本人も言ってました」
「……彼の口癖なの。私が彼の重力になるつもりだったけど、あなたには負けるわ」

 香織は珈琲を口にし、ショーケースの中のケーキを指差す。

「十個くらい見繕って下さるかしら? JSEAの職員への手土産にするわ」
「……はい、ありがとうございます」

 結月はショーケースの中からショートケーキを箱に詰める。
 香織は支払いを済ませ、結月からケーキの箱を受け取る。

「……次は、普通のお客さんとして来るわね」
「はい。お待ちしております」

 ドアベルが鳴り、香織の姿が店の外へと消えていく。
 結月はその背中を見送りながら、そっと胸に手を当てた。

 結月は『彼の隣にいたい』――その想いが、漸く自分の中で確かな形になった気がした。