重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 カフェ・ルミエールの午後は、静かな陽射しに包まれていた。
 店長の佐知子が昼休憩に入ることもあり、結月はカウンター内で珈琲豆の焙煎をする。
 カウンターの奥の厨房から、焼き菓子の甘い香りが漂い、店内をふんわりと満たしていく。
 その時、来店を知らせるドアベルが鳴った。

「いらっしゃいませ――」

 顔を上げた瞬間、結月の手が止まる。
 店に入って来たのは、白石香織だった。

「こんにちは」

 香織は前回と同じように、柔らかく微笑んでいた。
 けれどその表情には、どこか迷いと決意が混じっているように見えた。

「……いらっしゃいませ。どうぞ、お好きな席へ」

 結月は努めて平静を装いながら、オーダー票を手にする。
 香織はカウンター席に、静かに腰を下ろし、ブレンドコーヒーを注文した。
 そして、暫く無言のまま店内を見渡していた。

「やっぱり、いいお店ね。落ち着くわ」
「ありがとうございます」
「ここで、彼と出会ったんですってね」
「……はい」

 ブレンドコーヒーを香織の前に置くと、彼女は一口だけ飲み、ふぅと息をついた。