船内の照明は、昼間モードから夕刻モードへと切り替わっていた。
淡いオレンジの光が、無重力の空間に柔らかく広がる。
昊は個室の端末に向かい、静かにヘッドセットを装着した。
目の前の画面には「個人通信・録音モード」の表示。
彼は深く息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
「こちら、星野昊。……個人通信、開始します」
いつもの任務報告とは違う。
これは、彼女だけに向けた言葉。
誰にも聞かれない、誰にも見せない、彼の“素顔”だった。
「今日の作業は、予定より一時間早く終わりました。通信衛星の調整も順調で、船内の環境も安定しています。……特に問題はありません」
淡々とした口調で始まった報告は、徐々に少しずつ色を帯びていく。
「……ただ、今日は少しだけ、地球の音が恋しくなりました。君の声がないと、地球の音が、思い出せないんです」
言葉を選ぶように、昊は一拍置いた。
「船内は静かです。無音に近い。でも、君の声を思い出すと、不思議と“音”が蘇る。カップを置く音、笑い声、焼き菓子の香りと一緒に漂ってくる君の鼻歌。……君のいる場所の音は、俺にとって、地球そのものなんだと思います」
昊はふと、視線を窓の外に向けた。
そこには、青く輝く地球が静かに浮かんでいた。



