重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


「……そういえば、言ってたかも……」

 結月は思わず、笑みが零れた。
 でも、その笑みはすぐに滲んだ涙にかき消された。

 出発前に会話した時のことをふと思い出した。
 『君の声は、僕の重力だから』そう言いながら照れた彼の横顔が、脳裏に浮かぶ。

「……こんなに私のこと……見てくれてたんだ……」

 ページを捲る手が震える。
 昊の文字はどこまでも几帳面で優しく、彼のぬくもりが感じられた。

 けれど、同時に思ってしまう。
(こんなに見てくれていたのに、私は……)

 香織の言葉がふと脳裏をよぎる。
『彼の人生は、地上の常識とは違うの。あなたがその重さに耐えられるとは、正直思えない』

 結月はノートをそっと閉じた。
 そして、机の上に戻す。

 昊の未来は宇宙にある。
 彼の歩む道はきっとこれからもっと遠く、もっと険しくなる。
(私はその時……彼の隣にいられるのかな)

 答えは出ない。
 でも、ひとつだけ分かっていることがあった。
(――今のままでは、彼の足かせになってしまう)

 結月は踵を返し、部屋を出て静かにドアを閉めた。
 その背中には、決意の色が滲んでいた。