重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 その夜、結月は昊の部屋を掃除していた。
 彼が宇宙へ旅立ってから、初めて足を踏み入れる。
 昊の香りがどこからともなく僅かに漂ってきて、思わず胸の奥が締め付けられた。

 整然としたデスク、几帳面に並べられた文具。
 ベッドの上には、畳まれた状態のひざ掛け。
 どこを見ても、彼の“らしさ”が滲んでいた。

「……今にも帰ってきそうね」

 思わず零れた言葉に、溜息が零れた。
 
 結月は机の上に置いてあるノートに気づく。
 何冊かのノートが並んでいて、そのうちの一冊の表紙に小さく「Yuzuki」と書かれていた。

「……え?」

 ページを捲ると、そこにはびっしりと几帳面な文字が並んでいた。

 “結月の好きなケーキの種類”
 “疲れた時の顔の特徴”
 “叱られた時の反応と対処法”
 “笑った時の声の高さ”
 “カフェでの口癖”
 “落ち込んだ時に飲む紅茶の種類”
 “好きな花と、その理由”

 まるで観察記録のように細かく丁寧に、自分のことが綴られているのに気づく。