重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 数時間後。
 昊は、船内の個室に一人でいた。
 無重力の中、浮かぶようにして手元の端末を操作する。

 ボイスレコーダーを再生すると、結月の声がふわりと響いた。

『……今日の空は、ちょっと曇ってました。でもなんか、ちょっとだけ広く感じました。あの空の向こうに、昊さんがいるのだと思うと……』

 昊は目を閉じた。
 無音の宇宙に、彼女の声だけが優しく響く。

 再生が終わると、昊は無意識に再び再生ボタンを押した。
 何度も、何度も。



 一方その頃、結月は昊の部屋にいた。
 ふと、彼の部屋のドアを開けてしまったのだ。

 整然とした空間。
 机の上には彼が使っていたノートと、整然と並んだ文具。
 そして、あの“話題リスト”の下書きと思われる紙が、そっと置かれていた。

 結月はそれを手に取り、紙に視線を落とす。
 そこには、自分が話した何気ない話題が、丁寧な文字で記されていた。

「……本当に、観察されてたのね」

 思わず笑いながら、彼女は紙を胸に抱きしめた。

(……私、何してるんだろう)

 その問いに、答えはない。
 けれど昊の言葉が、結月の中に確かに残っていた。