重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 JSEAの地上管制室。
 モニターに映し出されたのは、無重力空間に浮かぶ昊の姿だった。
 背景には、静かに輝く地球の青。

「こちら、星野昊。第3次長期滞在ミッション、現在の状況を報告します」

 映像越しの昊はいつも通りの無表情で、淡々と任務内容を語っていた。
 通信衛星の展開状況、船内の環境データ、乗員の健康状態……そのすべてが正確で、冷静で、完璧だった。

 だが、報告の終盤。
 ふと、彼の口調が僅かに緩む。

「……それと、個人的な話になりますが。昨日、味噌汁を作ってみました。妻のレシピを思い出しながら。具材は限られていましたが、再現度は……65%程度。味噌の配合が難しいですね。彼女の味にはまだ届きません」

 その言葉に、地上で映像を見ていた結月は、思わず吹き出した。

「……これ、業務連絡っていうか、ただの“惚気”じゃない! お兄ちゃん、公共の電波を何だと思ってんだろう?」
「……でも、昊さんらしいです」

 隣で一緒に映像を見ていた美羽が、にやにやしながら肘でつついてくる。

「お兄ちゃん、絶対“恋してる”って気づいてないよね〜」
「……え?」
「これ、完全に恋してる男の顔じゃん」
「……」

 結月は、モニターの中で真顔のまま味噌汁を語る昊をじっと見つめた。
(彼の声が、表情が、遠く離れていても、こんなにも近く感じられるなんて……)