月が替わると、昊の任務準備が本格化し、家を空ける時間が増えた。
朝早く家を出て、夜遅くに帰宅する。
結月が目を覚ました時にはもういなくて、帰って来るのは彼女が眠りについた後。
*
ある夜、結月は眠れずにリビングで待っていた。
玄関のドアが開く音に、思わず立ち上がる。
「……おかえりなさい」
「ただいま」
昊は驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑んだ。
「起きてたんですか? ……もしかして、待っていてくれました?」
「……いえ、眠れなかっただけです」
それだけ言って、結月はそっと視線を逸らした。
昊の顔を見ると胸の奥がざわついて、久しぶりに聞いた彼の声に、胸の奥がトクンと鳴った気がした。
(この気持ちは、なんだろう。これは契約。そう、自分に言い聞かせて来たのに——)
*
昊もまた、訓練中にふと結月の笑顔を思い出していた。
集中しなければならない場面で、彼女の声が脳裏をよぎる。
「……まずいな」
自分らしくない、と彼は眉をひそめた。
互いに、言葉にはできない想いを抱えたまま、すれ違いの気配だけが静かに積もってゆく。
二人の距離は確かに近づいていた。
けれど、それを言葉にするには、まだ少しだけ勇気が足りなかった――。



