重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 その夜。
 昊がシャワーを浴びている間に、結月はふと彼の部屋に入った。
 机の上には分厚いファイルがいくつも積まれている。

「……これ、任務の資料?」

 開いたページには専門用語がびっしりと並んでいた。
 軌道計算、緊急時の対応マニュアル、宇宙服の構造図。
 どれも、自分には理解できない世界の話だった。

「……私なんかが、隣にいていいのかな」

 ふと、昼間の香織の言葉が蘇る。
 “あなたが彼の人生に必要な存在だとは思えない”


 結月はそっとファイルを閉じた。
 そして、昊の机に置かれた写真立てに目をやる。
 そこには宇宙服姿の昊とJSEAのスタッフが並んで笑っている写真が飾られていた。
 訓練中の一枚。
 その中に、香織の姿もある。
 二人の距離は近く、自然な笑顔がそこにあった。

「……」

 結月は、胸の奥にチクンと小さな棘が刺さったような気がした。