重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 とある日の朝。

「……できた!」

 結月はキッチンで小さくガッツポーズをした。
 今日は、昊のために初めてのお弁当を作ったのだ。

 卵焼きは甘さ控えめ、彩りにブロッコリーとミニトマト。
 メインは、昊の好物のハンバーグを食べやすいように一口大にしてアレンジしたもの。
(栄養バランスもばっちり。自分でもなかなかの出来だと思う)

「喜んでくれるといいな……」

 出勤前の昊を見送る時、結月は少しだけ緊張していた。

「これ……お弁当、作ってみました」
「お弁当? ……ありがとう。いただきます」

 昊はいつもの無表情で受け取った。
(ほんの一瞬だけ口元が緩んだ気がした……のは気のせいじゃないと思う。口に合うといいな……)



 昼休みのJSEAの休憩スペース。
 昊が弁当箱のフタを開けた瞬間、周囲の同僚たちがどよめいた。

「おっ、愛妻弁当じゃん! いいな〜!」
「うわ、めっちゃ美味しそう……って、あれ? 卵焼き、フタにくっついてない?」
「……これは、重力の影響だ」
「……それ、言い訳になってませんよ、星野さん」

 香織が、呆れたようにツッコミを入れる。

「いやいや、重力って……普通、水平に持ち運ぶでしょ?」
「……想定外の加速度がかかったようです」
「それ、ただの“カバンの中でひっくり返った”ってことでは……?」
「……」
「……」
「……まあ、愛があれば形なんて関係ないよな!」
「味に変化はない。問題ない」

 昊が珍しく言い訳のように即座に返して来たものだから、同僚たちに思わず笑みが零れる。
 本人は全く気付いていないようだが、鉄壁の無表情の仮面が、僅かに崩れていた。