「……お相手は、どんな方なんですか?」
香織が努めて平静を装いながら尋ねる。
「……優しい。料理が上手い。あと、叱ってくれる」
「……叱ってくれる?」
香織は聞き返した。
「はい。論理的に間違っている時、ちゃんと指摘してくれる。とても助かる存在です」
「……」
「あと、“頭どうかしてるんですか?”と、初対面で言ってくれました」
「……それ、惚気ですよね」
香織の表情が僅かに歪む。
「あれで、僕はこの人だと思いました」
「……」
「……」
香織が唖然とした表情を浮かべたため、昊は次の言葉を待っていると、
「……星野さん、恋愛のプロトコル、バグってません?」
「プロトコルは存在しない。だから、最適解を模索している」
当然とばかりに、昊は淡々とした口調で答えた。
「……あー、もう、なんか納得しちゃった自分が悔しい」
会議室にどっと笑いが起こる。
けれど、香織だけは笑わなかった。
手元の資料を握る手が、わなわなと震えていた。



