重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 JSEAの会議室。
 大型モニターに映し出された軌道データを前に、昊は淡々と説明を続けていた。

「……以上が、次回ミッションにおける通信衛星の配置計画です」
「了解。じゃあ、次は――――」

 ブリーフィングが一区切りついたその時、昊がふいに口を開いた。

「……私事ですが、結婚しました」
「……え?」

 一瞬、会議室内が静まり返る。

「えっ、今なんて?」
「結婚しました。戸籍上、既婚者になりました」
「えええええええええええええええええええええええええ!?」

 椅子が軋む音とともに、同僚たちが一斉に身を乗り出す。

「ちょ、ちょっと待って! 星野さんが!? 結婚!? いつ!? 誰と!? どこで!? どうやって!?」
「先週。都内のカフェで出会った女性と。その日にプロポーズしまして……、婚姻届は区役所に提出済みです」
「いやいやいや、情報量が多すぎるって!!」
「……必要な情報はこれで十分だと思いますが」
「いや、全然足りないよ!? むしろゼロだよ!?」

 そのやり取りを、会議室の隅で聞いていた女性がいた。
 広報担当の白石香織(しらいしかおり)
 整ったスーツ姿に冷静な眼差し。
 けれど今その瞳の奥に、僅かな揺らぎが走っていた。