「ただいま戻りました」
「昊さんっ!」
「……はい」
「ケーキ、全部食べたんですか?」
「いえ。会社に持って行きました」
「……えっ?」
「冷蔵庫に余っていたので。廃棄するより、活用した方が合理的だと判断しました」
「いやいやいや、勝手に持っていくのはどうかと……!」
結月は思わず頭を抱えた。
けれど、昊はまったく悪びれた様子もなく、淡々と続ける。
「同僚が、“美味しい”と評価してくれました。特に、チョコの層のバランスが絶妙だと」
「……うそ」
「“また食べたい”とも言われました」
「……っっ」
結月は顔を真っ赤にしてソファに沈み込んだ。
(まさかあの試作ケーキが、宇宙飛行士の職場で高評価を受けるなんて……)
「……なんか、すごく恥ずかしいです」
「なぜですか?」
「だって、まだ試作だったし……」
「完成度は高かったですよ。最終版が楽しみです」
「……うぅ、プレッシャーが……」
昊は少しだけ視線を逸らし、ぽつりと呟いた。
「……僕も、美味しかったと思います」
「えっ、今……褒めました?」
「……事実を述べただけです」
「ふふ、でも嬉しいです」
結月は、そっと笑った。
その笑顔に、昊の耳がまたほんのり赤く染まってゆく。



