重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 風邪が治って数日後の午後。
 カフェのバイトも、製菓学校も休みの今日は、久しぶりにゆっくりできる一日だ。

 結月はふとした気まぐれで、昊の部屋の掃除に取りかかった。
 普段はあまり立ち入らない場所。
 けれど、彼のことをもっと知りたい——そんな気持ちが、自然と足を向かわせた。

 本棚には宇宙関連の書籍や写真集がずらりと並んでいた。
 無重力下での訓練風景、OASIS(オアシス)の内部、星雲の写真。
 そのどれもが、彼の“本気”を物語っている。
(※OASIS:Orbital Advanced Station for International Science(国際宇宙ステーション))

「……すごいな」

 思わず、ぽつりと声が漏れる。
(この部屋には、彼の夢が詰まっている。無口で理屈っぽくて、感情が読みにくい人だけど——。その分、言葉よりも行動で、想いを伝えようとしてくれる人だ)



 その日の夕方。
 夕飯の支度をしようと冷蔵庫を開けた結月は、思わず眉をひそめた。

「……あれ? ケーキ、なくなってる……?」

 昨日の夜、確かに残しておいたはずの試作ケーキが、影も形もない。
(学校で作ったものを持ち帰っては、少しずつ食べていたのに……)

「まさか、食べた……?」

 その時、ちょうどリビングドアが開いた。