重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 翌朝。

「おはようございます」

 キッチンで朝食の準備をしていた昊が、ぴたりと動きを止めた。

「……おはようございます。帰宅、遅かったですね」
「ちょっと課題が長引いてしまって。……おにぎり、ありがとうございました。とっても美味しかったです」
「……僕は、事実を述べただけです」
「ふふ、またそれ」
「……?」
「いや、なんでもないです」

 昊は無言で味噌汁をよそいながら、ほんの少しだけ耳が赤くなっていた。



 その日の夜。
 結月は試作したケーキをひと切れ、皿にのせて冷蔵庫に入れておいた。
 ラップの上に、小さなメモを添えて。

――――

 よかったら、食べて下さい
 今日の授業で作ったケーキです

          結月

――――

 翌朝。
 結月は、いつもより少しだけ早く目を覚ました。
 気になっていたのだ。
 あのケーキをちゃんと食べてくれたのかどうか。
 朝からケーキを食べるような人には見えないが、何となく食べてくれている気がしていた。

 リビングドアを開けると、昊がすでに朝食をとっていた。
 テーブルの上にはいつもの定位置に並べられたトーストとサラダ、ゆで卵、ヨーグルト。

「おはようございます。……今日は早いですね」
「そうですね」

 結月は、彼の向かいにそっと腰を下ろした。

「結月さんも、食べますか?」
「はい、いただきます」

 昊は立ち上がり、キッチンへ向かう。
 その背中越しに、ぽつりと声が落ちた。

「……美味しかったです」
「え、……それって、ケーキの感想ですか?」

 昊は振り返らず、トースターに手を伸ばしながら答えた。

「事実を述べただけです」
「ふふ、でも嬉しいです。そう言って貰えると」

(朝からケーキを食べてくれただけでも嬉しいけれど、ちゃんと感想を口にしてくれる人なんだ……)