翌朝。
「おはようございます」
キッチンで朝食の準備をしていた昊が、ぴたりと動きを止めた。
「……おはようございます。帰宅、遅かったですね」
「ちょっと課題が長引いてしまって。……おにぎり、ありがとうございました。とっても美味しかったです」
「……僕は、事実を述べただけです」
「ふふ、またそれ」
「……?」
「いや、なんでもないです」
昊は無言で味噌汁をよそいながら、ほんの少しだけ耳が赤くなっていた。
*
その日の夜。
結月は試作したケーキをひと切れ、皿にのせて冷蔵庫に入れておいた。
ラップの上に、小さなメモを添えて。
――――
よかったら、食べて下さい
今日の授業で作ったケーキです
結月
――――
翌朝。
結月は、いつもより少しだけ早く目を覚ました。
気になっていたのだ。
あのケーキをちゃんと食べてくれたのかどうか。
朝からケーキを食べるような人には見えないが、何となく食べてくれている気がしていた。
リビングドアを開けると、昊がすでに朝食をとっていた。
テーブルの上にはいつもの定位置に並べられたトーストとサラダ、ゆで卵、ヨーグルト。
「おはようございます。……今日は早いですね」
「そうですね」
結月は、彼の向かいにそっと腰を下ろした。
「結月さんも、食べますか?」
「はい、いただきます」
昊は立ち上がり、キッチンへ向かう。
その背中越しに、ぽつりと声が落ちた。
「……美味しかったです」
「え、……それって、ケーキの感想ですか?」
昊は振り返らず、トースターに手を伸ばしながら答えた。
「事実を述べただけです」
「ふふ、でも嬉しいです。そう言って貰えると」
(朝からケーキを食べてくれただけでも嬉しいけれど、ちゃんと感想を口にしてくれる人なんだ……)



