夜の十時を過ぎた頃、結月はそっと玄関のドアを開けた。
「……ただいま」
返事はない。
リビングの明かりは落ちていて、部屋の中は静まり返っている。
昊は早寝早起きタイプだ。
朝は五時半に起きて、六時にはジョギング、六時半に朝食、七時半には出勤。
結月が夜間の製菓学校から帰る頃には、すでに就寝していることが多かった。
「……すれ違い生活、ってやつだなぁ」
靴を脱ぎ、そっとリビングを通り過ぎようとした、その時。
ダイニングテーブルの上に、何かが置かれているのに気づいた。
「……え?」
そこには、ラップのかかったおにぎりと、保温ポットが置かれている。
中を確認すると、お味噌汁が入っていた。
そして、小さなメモ用紙が一枚添えられている。
――――
お疲れさま
温め直して食べて下さい
味噌汁はスイッチで再加熱できます
昊
――――
「……何これ」
思わず笑みが零れた。
字は相変わらず、教科書みたいにきっちりしている。
でも、そこに込められた気遣いは真っすぐで、あたたかかった。
「……ありがと」
結月はおにぎりを手に取り、ひと口かじった。
中身は、梅干し。
酸っぱさが疲れた身体にじんわり染み渡る。
「……うん、おいしい」



