重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


「……ここが、私の新しい家かぁ」

 結月は昊の自宅であるマンションの前で立ち止まり、深く息を吐いた。

「ここまでの道順、覚えましたか?」
「……はい」

 結月が頷くと昊も頷き、マンションのエントランスの中へと歩み出した。

 外観はシンプルで無機質。
 無駄がなく、整然としていて、どこか宇宙船の船体を思わせる。
 セキュリティは顔認証付きの最新型。

 (——うん、なんかもう、いかにも“この人”が選びそうな物件だ)

『ようこそ』と言わんばかりに、無音で開く自動ドア。
 結月は思わず、声が漏れた。

「……地球に帰還、って感じ」



「どうぞ」

 昊が先に靴を脱ぎ、スリッパを差し出してくれる。
 その動作が妙にきっちりしていて、まるで訓練された係員のようだ。

「ありがとうございます……って、え、これ……」

 結月は思わず足を止めた。
 玄関の壁に『靴の向き整列ガイド』と書かれたラミネートが貼ってある。

「……なにこれ」
「靴の向きが揃っていると、帰宅時のストレスが軽減されます」
「……理論的ですね」
「はい」

 リビングに入ると、さらに驚いた。
 冷蔵庫の中はまるで軍隊のように整列された食材たち。
 乳製品、卵、野菜、調味料——すべてがラベル付きのケースに収まっている。

「……これ、誰がやったんですか?」
「僕です」
「ですよね」

 キッチンの引き出しを開けると、カトラリーが種類ごとに仕切られ、スプーンとフォークは大きさ順に並んでいた。