「あの……」
「父です」
「……ですよね。……初めまして、綾瀬結月と申します」
結月が挨拶をすると、顔色一つ変えずに頷くだけ。
結月は思わず笑いを堪えた。
(なるほど。昊さんの“理論的すぎる天然”は、遺伝だったんだ……)
「そろそろ帰るから」
一時間ほど会話すると、昊がスッと立ち上がった。
結月も慌てて立ち上がり、昊の家族に一礼した。
「今日は、お時間を作って頂き、ありがとうございました」
「……本当に、よくできたお嬢さんね。昊、あなた素敵なご縁を頂いたのね。見合いがダメになったと聞いた時はどうなることかと思ったけど……。ご縁は時間の問題じゃないものね……」
「……はい」
昊は静かに頷いた。
その表情はいつもと変わらないはずなのに、どこかほんの少しだけ、嬉しそうに見えた。
「結月さん、いつでも遊びに来てね」
「……はい」
*
昊の家を後にして、帰路に着く二人。
「……仮契約、ミッションクリアです」
「ぶはっ……」
結月は思わず吹き出した。
「なにそれ、報告書ですか」
「はい。個人ログに記録しておきます」
(やっぱり変な人――でも、悪くないかもしれない)
この時、二人の軌道がゆっくりと重なり始めた瞬間だった。



