「どうぞどうぞ、上がって下さいね」
リビングに通されると、昊の母・陽子がにこやかに迎えてくれた。
柔らかな雰囲気の女性で、エプロン姿がよく似合っている。
結月は深々とお辞儀をする。
「初めまして、綾瀬結月と申します。お口に合うか分かりませんが……」
結月は手土産の焼き菓子の詰め合わせを昊の母親に差し出した。
「まあまあ、遠いところを……。こういう気遣いは次からは本当にしないで下さいね。うちの昊が、こんなに可愛い彼女を連れてくるなんて……。いつか、宇宙で誰か拾ってくると思ってたのに」
「母さん、それはない」
「でも、昔『宇宙人と結婚する』って言ってたじゃないの」
「……それは、小学三年のときの話だ」
「そうそう、あの時『地球人は感情が複雑すぎて非効率』って言ってたわよ」
「……」
結月は、思わず昊の顔を見た。
彼は無表情のままだが、耳がさらに赤くなっている。
「……あの、昊さんって、小さい頃からそんな感じだったんですか?」
「うん、ずっとこんな感じ! でもね、昔はもっとポンコツだったよ〜」
美羽がソファにどかっと座りながら、楽しそうに話し始めた。
「初恋の子に“君の遺伝子は優秀そうだ”って告白して、泣かれたことあるの!」
「……ぶっっっっっっっ!!」
結月は思わず吹き出した。
昊はというと、無言でお茶をすする。耳は真っ赤だ。
「……それは、どういう……?」
「遺伝的に優れている=好意、って思ってたらしいよ。お兄ちゃん、恋愛の辞書が理系すぎるの」
「……その件については、反省している」
「いや、反省の方向性が気になるんですけど……!」
「“表現の最適化”が必要だったと理解した」
「出た! 最適化‼」
「でもね、結月さん。お兄ちゃん、これでめちゃくちゃ気にするタイプなんだよ」



