重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 結月は暫く黙っていた。
(目の前の男は、やっぱり変だ。でも、嘘はついていない。冗談も、打算も、見えない。ただ真っ直ぐに、私を見ている)

「……私、夢があるんです。一度諦めたけど、もう一度挑戦しようって決めた。だから、誰かの都合で生きるのは、もう嫌なんです」
「わかります。 だからこそ、君の夢を守る形での契約を提案したい。僕の任務に必要なのは“形式的な結婚”であって、君の人生を縛ることではありません。むしろ、支え合える関係になれたらと思っています」
「……支え合う、ね」
「はい。僕は掃除が苦手ですが、洗濯とゴミ出しは得意です。料理はできませんが、食器洗いは好きです。生活費は全額支払いますし、宇宙滞在中の生活費はJSEAが負担します。契約期間は、僕が帰還するまでです」
「……なんか、面接みたいですね」
「JSEAの面接より難易度が高いです」
「……フフッ」
「……おかしいですか?」
「はい、とっても」
「……そうですか」

 しゅんと項垂れる昊を見て、結月は小さく息を吐く。

「……じゃあ、条件付きで」
「条件?! ……えっ、引き受けてくれるんですか?」
「断った方がいいですか?」
「いえ、困ります!! どんな条件でも吞みますので!!」
「私の夢を邪魔しないこと。 それから、家事はちゃんと分担すること。 あと、勝手に“観察”しないこと。 それが守れるなら……契約、してもいいです」

昊の目が、これ以上ないほどに見開かれた。

「ありがとうございます!!」
「まだ“仮”ですからね。仮契約。正式に決めるのは、ちゃんと話し合ってからです」
「了解しました。仮契約、成立ですね」
「……はい。仮、です」

 昊は静かに頷いた。
 その表情は、いつもと変わらないはずなのに、 どこか、ほんの少しだけ、嬉しそうに見えた。

(——変な人。でも、悪くないかもしれない)