「……また来た」
カウンター越しに視線を送ると、いつもの席に、いつものジャケット姿。
彼は変わらず無表情で、変わらず静かにコーヒーを飲んでいる。
(——あれから、毎日来てる)
「……しつこいなぁ」
(でも、嫌じゃない。むしろ少しずつ、気になってきている自分がいる)
閉店間際、結月がカウンターを拭いていると、昊が立ち上がった。
レジに向かうでもなく、まっすぐ彼女の前に立つ。
「……今日も、コーヒーだけでしたけど」
「はい。味は安定していました」
「……ありがとうございます」
「……結婚の件ですが」
「またそれですか」
「はい。改めて、お願いしたくて来ました」
「……なんで、私なんですか?」
結月は、ふと真顔になった。
「他にもいるでしょ? 条件に合う人、ちゃんとした……普通の人」
「君がいいんです」
「なんで?」
「君じゃなきゃ、意味がないからです」
「……」
「君は、誰かのために動ける人だ。子どもにも、見知らぬ人にも、元彼にも、誠実に向き合っていた。そういう人となら、信頼関係を築けると思った」
「……」
「僕は恋愛経験がありません。でも、任務には“地上支援パートナー”が必要です。形式的な結婚でも構いません。でも、どうせなら、信頼できる人と組みたい。君となら、それができると思ったんです」
「……」
「どうか、考えてもらえませんか?」



