結月は傘を受け取りながら、思わず笑ってしまった。
「しつこいですね」
「はい。真剣なので」
「……」
「また来ます」
「……もう、好きにしてください」
昊は軽く頭を下げると、雨の中を歩き出した。
傘を差さず、濡れることも気にせずに。
「……ちょっと!」
結月は思わず声を上げた。
「自分の分は!? 傘、もう一本あるんじゃないんですか!?」
「ありません」
「……じゃあ、なんで……」
「君が濡れないことが、最優先事項です」
「……」
昊はそのまま、静かに夜の雨に溶けていった。
結月はしばらくその背中を見送ってから、傘を開いた。
(——変な人。でも、やっぱり、ちゃんと見てくれてるんだ)
傘の中にほんの少しだけ、あたたかい空気が広がった。



