閉店作業を終えた頃、外はすっかり雨になっていた。
窓ガラスを伝う水滴が、街灯の光をぼやけさせている。
「……あ、降ってきたんだ」
結月はカウンターの奥から顔を出し、外を見た。
(朝、降ってなかったから……傘持ってきてないよ)
「結月ちゃん、もう上がっていいよ。気をつけて帰ってね」
「ありがとうございます。じゃあ、お先に失礼します」
エプロンを外し、ショルダーバッグを肩にかけて店を出ようとドアを開けた瞬間、冷たい風と雨の匂いがふわりと頬を撫でた。
「……うわ、けっこう降ってるなぁ」
結月はショルダーバッグを頭にのせて、走りだそうとした、その時。
「これを」
「へっ……?」
目の前に差し出されたのは、黒い傘。
その手の主は、見慣れたジャケット姿の男性だった。
「……まだいたんですか?」
「君に傘を渡したくて」
「……は?」
「天気予報で降雨確率80%と出ていたので、持参しました。 君が傘を持っていない可能性は、今朝の服装から推定して65%。 その場合、帰宅時に濡れるリスクが高いと判断しました」
「……」
「なので、待っていました」
「……(怖っ)」
「……いらなかったですか?」
「……いや、いりますけど……」



