カフェ・ルミエールの午後は、いつもより少しだけ賑やかだ。
近くの幼稚園が早めに終わったのか、親子連れが何組か、店内に集まっていた。
「ジュースまだぁ~?」
「もうすぐ来るわよ。ちゃんと座っててね」
結月はトレイにジュースとケーキをのせ、テーブルへと運ぶ。
子どもたちの声が店内に響き、いつもより少しだけ騒がしい。
(でも、それが嫌じゃない。むしろ、心がふわっと軽くなる)
「お待たせしました。オレンジジュースです」
「ありがとー!」
元気な声に思わず笑みがこぼれた、次の瞬間——。
「あっ」
ガシャンッ!
小さな手がグラスを倒し、オレンジジュースが入っていたグラスがテーブルから床に落ちた。
床に落ちたグラスの破片が飛び散り、子どもが泣き出す。
「あ、ごめんなさい! ゆう、大丈夫? 怪我してない?」
母親が慌てて子どもを抱き上げる。
結月はすぐに駆け寄り、破片に注意しながら声をかけた。
「お怪我はありませんか……? ……ぼく、だいじょうぶだよ~」
子供の様子を確認しながら、割れたグラスを拾い始めた結月の手首が、そっと掴まれた。
「素手だと危ない」
「えっ……」
低く落ち着いた声と共に、結月の視界にジャケット姿の男性がしゃがみ込んだ。
(彼だ。突然のプロポーズをして来た、あの男性。あの日以来、毎日来店していて、決まって隅のテーブル席で珈琲を飲んでるのよね)
彼はすぐさまポケットからハンカチを取り出し、それを手に巻きつけると、迷いなくガラスの破片を拾い始めた。
「ちょ、ちょっと……お客様にそんなことさせられません!」
彼は返事をせず、黙々と破片を拾い続けている。
結月は一瞬躊躇ったが、すぐにカウンターへと急いだ。



