重力圏外のプロポーズ、軌道修正は不可能です~宇宙飛行士は恋に不器用~


 JSEA(ジェイシー)本部の会議室は、冬の午後の光に包まれていた。
⦅※JSEA:Japan Space Exploration Agency(日本宇宙探査機構)⦆

 窓の外には、雲一つない青空。
 その向こうに広がる宇宙を、星野(ほしの) (こう)は静かに思い描いていた。

「……条件は既婚者であることです」

 淡々と条件を告げるプロジェクト責任者の言葉に、会議室の空気が僅かに揺れた。

「……既婚者、ですか?」

 昊は眉一つ動かさずに問い返した。

「はい。それが、任務に必要な条件だそうです」

 昊はゆっくりと瞬きを一度だけした。
 彼にとってそれは、“感情の揺れ”を示す最大限のリアクションだ。
 過去にこの動きで『驚いてるの?』と聞かれたことがある。

「了解しました」

 短く低く、そして迷いのない声。
 その声音に周囲の職員たちは顔を見合わせる。
 だが昊は、誰とも目を合わせなかった。


 USSA(ユーサ)との合同長期宇宙滞在プロジェクト。
 選ばれたのは数百人の候補者の中から、僅か数名。
 その中に名前があることは誇りであり、重大な責任でもある。
USSA(ユーサ):United States Space Administration (アメリカ宇宙開発機構)⦆

『既婚者であること』は、USSA側が提示した条件だった。
 長期の宇宙滞在では地上との“繋がり”が、乗員の心理に大きな影響を与える。
 家族の存在が心の支えになる——それが、彼らの考えだった。