久々に抱きしめられて、幸せな気持ちでいっぱいになる。
会いに来てよかった。
こんなに幸せならもっと早くこればよかった。なんて思う。
ふと顔を上げるとすぐに目が合った。
「早坂くん、」
「ん?…」
早坂くんの瞳が揺れる。
これは、キスする合図。
付き合いはじめて知った。
キスする前、必ず彼の瞳が揺れること。
どちらからともなく近付く唇に自然と目を閉じたけれど、触れるか触れないかのところでスマホの着信音が鳴って、閉じていた目が開いた。
それは早坂くんのスマホ。
早坂くんも目を開けて一瞬動きを止めたけれど、そのまま再び目を閉じた。
「え、はやさ……っ」
予定通りに重なった唇は、角度を変えて何度か重なる。
そしてこちらも、もう一度鳴るスマホの着信音。
「っ、…ま、まってまって…」
はあっと息を吸って、早坂くんの胸を押した。
「鳴ってるよ」
私が言うと、早坂くんはため息をついてスマホを手に取った。
「ごめん、出ていい?」
「うん、どうぞ」
私は電話に出る早坂くんの隣で、熱くなった顔をパタパタと手で仰いだ。
「もしもし。
は?今日?ムリムリ。明日も無理、明後日も無理」
スマホから微かに聞こえる男の人の声に少し安心する。
私っていつからこんなに嫉妬深くなったんだろ。
「うん、そーだよ。え?イヤだ。ぜってぇイヤ」
何の話をしているのか、イラついた口調の早坂くん。
普段は見れない早坂くんの姿に、何だかニンマリしてしまう。
早坂くんはチラリと私を見ながら、変な顔をしてみせた。
それを見て私は、またクスクスと笑ってしまう。
遠距離じゃなかったら、こんなやりとり沢山できるんだろうな…。
「あかり」
早坂くんが申し訳なさそうに私を見た。
スマホはまだ通話中のままだ。
「大学の友達が彼女紹介しろって」
「えっ」
早坂くんの大学の友達。
私も会ってみたい、かも。
「嫌だよなー、…」
「うん、いいよ」
「え?」
「私も会ってみたい」
これまた想定外の返事だったのか、早坂くんは少し驚いた顔をした。
「え、いや、無理しなくても」
「全然大丈夫」
「あ…そう?」
早坂くんは戸惑った様子のまま、電話の相手にOKの返事をした。



