「どーぞ」
「おじゃまします…」
用意してくれたスリッパを履いて、少しずつ中へ進む。
あまり物がない、1LDKのシンプルな部屋。
ほのかに香る、早坂くんがたまにつけてる香水のにおい。
「嗅ぐなよ」
「えっ、嗅いでないよ」
「スンスンしてんのバレてるから」
そう言って早坂くんが私の鼻を摘んだ。
「ごめん、もう嗅がない」
「ふっ。なんか飲む?」
ようやく解放された鼻を隠しながら「じゃあ、お茶を」と返事をした。
「綺麗な部屋だね」
「すげー片付けた」
「そうなの?」
「そりゃあね。あかりさん来るって言うから」
「いつもは、片付いてないの?」
「まぁ友達きた次の日とかは結構散らかってるよ」
「そうなんだ。
…相変わらず、友達多いよね早坂くん」
「そうか?ってかさ…あかり、」
並んで座っていたソファが少し軋む音がした。
「その、早坂くんって、そろそろやめない?」
「…え」
今まで緊張して合わせられなかった視線が、思いもよらない提案によってあっけなく彼の顔へと向いた。



