「…おんぼろドライヤー」
早坂くんちのドライヤーは、風量が弱くて全然髪が乾かなかった。
そういえば、お兄さんのお古のドライヤーって言ってたっけ。
私は6割程乾かして、乾かすのを諦めた。
「早坂くん、お風呂ありがと……って」
リビングに入ると早坂くんがソファで横になっていた。
「寝てる?」
近くで顔を覗き込むと瞼を閉じていて、長いまつ毛が扇状に広がっている。
昨日、深夜までバイトって言ってたのを思い出す。
それなのに朝から新宿まで迎えに来てくれたんだ。
部屋も掃除したって言ってた。
ソファの下に座り、早坂くんの手を両手で包んだ。
「……すき。
…さみしい。
…もっと、知りたい」
なんの文章にもならない。
頭に浮かぶ単語だけをつぶやくと、
パシッ
触れていた方とは反対側の早坂くんの手が、私の腕を掴んだ。
「さみしい?」
パチリと目が合う。
「お、起きてたのっ?」
慌てて手を離そうとしたけれど、早坂くんが掴んだ腕は離れなかった。
「さみしいって、何?」
「…さいあくっ、狸寝入りなんて悪趣味」
「あかり」
真っ直ぐ私を見る早坂くんの顔はいつになく真剣だった。



