早坂くんは友達が多い。
大学に入ってから、同じゼミの誰々がとか、バ先の誰々がとか、色んな名前が出てきてとても覚えられない。
「…え、私、邪魔してない?」
『いや、邪魔なのアイツらの方』
早坂くんはそう言うと、ちょっとゴメンと言って隣の部屋にいるらしいお友達に「お前らうるせぇ、さっさと帰れ」と怒っている声が聞こえた。
笑い声の中に微かに聞こえる女の人の声。
そりゃいるよね、女の子も。
なんかモヤモヤする。
私だってまだ早坂くんの一人暮らしの部屋に入ったことないのに。
…なんて、醜い嫉妬心をぐっと飲みこんだ。
『お待たせ』
「あ、うん。おかえり」
『…ただいま』
モニターがロード中に変わる。
ゲーム友達を卒業したのに、相変わらず一緒にオンラインゲームしてる私たち。
遠距離だから全然会えないのもあるけど、付き合う前と何かが変わったのかな。
私だけが早坂くんのこと好きなんじゃないかとか、大学で心変わりされないかなとか、最近はネガティブな思考ばかりでイヤになる。
手持ち無沙汰になった右手でコントローラーのスティックを意味もなくカチカチと動かしていると、
『ふっ』
突然の短い笑い声に、手を止めた。
「なに?」
『ん?いや…おかえりっていうのが』
「おかしい?」
『おかしいっていうか、ちょっと想像した。
あかりが俺ん家でおかえりって言ってくれんの』
早坂くんはいつもストレートに思ったことを口にする。
本人は何の気なしに言うんだろうけど、言われた私はドキドキしてるんだよ。
「早坂くん家、行ったことないよ」
ぼそぼそと言う私の声も、ちゃんと拾ってくれる。
『ハハッ、確かに。来る?』
早坂くんはいつもの軽いトーン。
私はコントローラーをギュッと握りしめた。
「…うん」
『え』
「行こうかな、東京」
『マジ?』
想定外の返事だったのか、それはいつもより少しだけ大きな早坂くんの声だった。



