「冷蔵庫、開けてもいい?」
「どぞー」
買ってきた飲み物やアイスを冷やそうと冷蔵庫を開けると、既にいくつか飲み物が入っていた。
その中にはビールなどのお酒もあった。
「お酒…」
私のひとりごとが聞こえたのか、早坂くんがキッチンにやってきて私の背後から手を伸ばす。
「あぁ、酒?ゼミに留年してる人いて、巻サンっていうんだけど。あ、巻って苗字な。その人がここに来るたび置いてくんだよ」
早坂くんは慣れた手つきで既に入っているお酒類を冷蔵庫の最上段にまとめながら「つーか、ほとんど俺の飲み物じゃない物で埋め尽くされてる」とボヤいた。
「あそうだ。今日、巻サンも来るんだけど。ちゃんと距離取ってね」
「距離?」
早坂くんの方を振り返ると、思っていたよりすぐ近くにいてドキッとした。
「あの人、酒癖悪い上に女好きだから。人の彼女にもすぐ手出す。要注意人物」
「そんな人、本当にいるんだ」
「な。本当、東京こえーよ」
私は、そんなことより早坂くんとの距離にいたたまれなくて、また冷蔵庫に体を向けた。
「あ。逃げた」
「な、なにが」
「あかりー」
「なんですか」
「あかりちゃーん」
「だから、なに…」
後ろからギュッと抱きしめられて、思わず冷蔵庫の扉をパタンと閉めた。
手にはまだコンビニで買ったアイスが袋に入ったままだ。
「会いたかったんだけど。これって俺だけ?」
早坂くんの表情は見えない。
「私も、同じだよ」
袋を持ってない左手を、回された早坂くんの腕に添える。
付き合い始めてから知った早坂くんの一面。
結構甘えてくるし、スキンシップも多め。
比較対象がないから想像だけど、多分あながち間違ってない。
「…何か。あかりからそういう熱量を感じない」
それに比べて確かに私は、ベタベタ甘えるタイプではないけど。
こんなにもドキドキしてるのにそんな事を言われるなんて、心外だ。
私は体をひねると、目が合った早坂くんに自分からキスをした。



